竹草少女
何かを育てるなど、小学生以来である。現在彼女が暮らしている寮では生き物が禁止されているためにペットなど飼った事もなかったわけだが、植物なら―――まだ植物と決まったわけではないのだが―――問題はないはずだ。
(植物に必要なのは、土と水と太陽でしょ? )
とても乱暴な考えだが間違ってはいない。
こういうときに委員長としてあちこち校内を歩き回っていた経験が活きる。
軽やかな気分だ。心もち身体も浮き立つような感じがした。
「土って言っても、何でもいいわけじゃないんだろうなぁ…校庭の土じゃさすがにまずいんだろうし」
ひとつ、思い当たるところが彼女にはあった。
両手で大きな植木鉢の端っこと端っこを掴みながら、彼女はよたよたとその方向へ走る。
身長もさほど高くなく、背も低めの彼女のそのような姿はやもすれば「転んでしまうよ」と声をかけたくなるが、そのときの彼女の顔は活き活きしていたので声をかけようという気にはならなかっただろう。遠目に保健室を出て行った姿を確認したソフト部の顧問の顔も、一瞬怪訝そうにはなったがそれでも一安心という表情で彼女の後ろ姿を見送っていた。
もちろんそんな事は彼女の頭の片隅にもなかったわけだが、事実として今彼女の気持ちが“最高”なのは間違いなかった。
後で思い返すと自分がなんでそこまで興奮していたのか彼女にはいまいち思い出せなかったくらいなのだが、冷静に考えればそのときの流生はわけも分からず嬉しかったので、そんな唐突なノリの自分に付き合わされた聡雅は、本当に「なにがなんだかよく分からなかった」に違いないと思うのだった。
「まだ動いてたっ」
裏校舎の方へノンストップで走ってきた彼女は、少し息を荒くしながらもパッと顔を明るくする。
それは堆肥マシーンと呼ばれ、生ゴミなどの有機材を分解する機械なのだった。
「良かった…」
渇いて張り付いた喉を無理やり飲み下して、機械を見る。上の蓋は有機素材を入れる場所だ。
「土は下から出てくるのかなあ?」
覗きこんでみる。どうやら何層かに分かれているようで、土は下の方に溜まっているようだった。
辺りを見回して、適当なシャベルとゴム手袋を見つけると、早速下層の蓋を開けて堆肥を取り出そうとする。
「うっ…くっさ」
堆肥特有の鼻を刺すような、酸っぱいようなざらざらした匂いが流生の鼻腔を襲う。