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ほのむら伊流
ほのむら伊流
novelistID. 498
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竹草少女

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 彼女をガラスとソフトボールの直撃から救った存在が、無造作に廊下の隅に転がっていた。
(植物…の種?)
 大きさに反して、瞬時に彼女がそう理解することができたのは、ひとえにその物体に生えている青々とした双子葉が目立っていたからだ。
 ただし青々といっても、どちらかといえば緑よりは本物の青の方だったが…。
 恐る恐る触ってみる。
 それはソフトボールよりも小さい、手のひらに納まってしまいそうな程度の―――それでも充分、彼女の知る“普通の種”よりは大きいが―――表面が金属のような光沢を放つ不思議な楕円形をしていた。通常と異なるのは綺麗な楕円形ではなく、その所々に節くれだった部分や尖った部分があり、何よりも無造作に生えた双子葉の形が、葉というよりはそれ自体がまた別の種なのではないかと錯覚するくらい分厚いプレート状であるところか。
 触感は非常に硬く、表面は滑らかだが、不思議な事に彼女はぬくもりを感じた。
(生きてる!)
 中に生命を感じるのだ。脈打ったとか一瞬震えたとかはなかったが、それでも確かに“生きている”のが彼女には感じられたのである。
 これは彼女のこれまでの人生で感じたことの無いものだった。
 見た目はどうみても無機質で生命など宿りそうも無い物体に、ぬくもりを感じるということが彼女には初めての経験だったのである。
 だからその異常性よりもまず、好奇の方が勝っていた。
 じっと彼女はしばらくの間、その種を見つめていたが、誰かが近づいてくる音を聞いて咄嗟に持っていた通学用の鞄に押し込む。
 素っ頓狂な声で安否の配慮と事態への混乱がないまぜになったような台詞を次々と吐き出す教師の台詞をほとんど聞き流しながら、彼女は「大丈夫ですから」と言ってその場を立ち去った。
 鞄越しにでもたしかにその生命を感じていた彼女はそのことで頭がいっぱいで、頭を下げるソフト部の後輩達の声にも流すような事しか言わないまま、ただにこにことしていたため、その姿に逆に不信感と罪悪感を感じてしまった後輩が「保健室に連れて行った方がいいんじゃないか」と提案する始末だった。

作品名:竹草少女 作家名:ほのむら伊流