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ほのむら伊流
ほのむら伊流
novelistID. 498
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竹草少女

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 本当に突然のことだった。
「飛行機?」
 最初は、この時期によく鳴る風の音か何かだろうと思った。
 上空で大気が轟き、うごめいているような感じは、五月から六月にかけては大気の動きが活発なのか、よくある事なのだった。
 よくぼけっとしていると評される事がある彼女は、よくこの時期はただ何となしに空の音を聞いていたりするので耳慣れた音だったのだ。
 ほんの少し、うるさいなぁと感じ始めて、徐々にそれが恐れに変わる。
(う、うるさすぎない!?)
 その轟音が、どんどん近づいてきているように思ったのだ。
 まだ校舎の中にいた彼女は、外で何が起こっているのかを知ろうとして、校庭側の窓へ目をやる。
 外ではそれぞれ課外活動に勤しんでおり、誰も音には気付いていないようだ。それもそのはずで、彼ら自身が既に大声を出しているのである。自ら発する音の方が徐々に大きくなっていく轟音よりは大きいのは当然で、来月から大会を控えてただでさえ集中している神経に、余計な遠くの音は気にならない。
 空を見るが、特に何の影も見当たらない。飛行機が飛んでいる様子も無い。空には消えかけた飛行機雲が、一筋の線で地平線から地平線を切り分けている。
 彼女は怖くない。むしろこれから起こることに対する、ある種の予感が彼女を不思議な気持ちにさせていた。
(なにかくる!もうすぐくる!)
 彼女の五感とは別の感覚が告げていた。果たして―――それは来た!
 一瞬閃光が走ったように見えた。
 “見えた”というのは、彼女が見たのは光源そのものではなく、あくまでそれが照らす壁やその刹那に切り出された深い影の方だったからだ。
 そして続くのは破砕音。
 その方向で、後ろからだと確信する。校庭側とは逆、裏校舎側の窓ガラスが割れた音に違いない、と彼女は瞬時に悟る。
 振り向こうとして顔を左に向けた―――その右端の視界に今度は別のものが映って、彼女は注意を逸らされる。
 最初の大きさは空中に現われた読点だった。白い読点は徐々に卓球程度の大きさになり、やがて拳大からさらに成長してソフトボール程度の大きさになり―――。
 そして続いた破砕音。その方向で、グラウンドからだと悟る。
 彼女が白い何かと勘違いしていたもの―――グラウンドから打ち出されたファールボールが、同心円状に細かなガラスを散らしながら彼女に迫っていた。
作品名:竹草少女 作家名:ほのむら伊流