自己嫌悪
「先生は自信がありますか。」
先生は大きく頷いて言った。
「もちろんあります。私は失敗したことはありません。しかし、決めるのは患者さん自身ですから。」
私は決心した。
「自信があるならお願いします。それでもし私が他の人格になってしまっても構いません。ずっと目を覚まさないのは困りますけど。過去の記憶だって無くしたとしても新しく始められるのであれば構いません。私は変わりたいんです。」
そう、私は変わりたかった。今の生活を変えて、違う人生を送りたかった。そのためなら少しぐらい危険だって構わない。今までと同じ、つまらない生活を送るくらいなら。
「分かりました。あなたがそれほどまで言うならやりましょう。もし、万が一失敗するようなことがあってもできる限りの事はさせていただきます。と言っても、失敗なんて事は有り得ません。私には医者として経験と技術がありますから。では、始めましょう。」
この医者はやはりかなりの自信家だ。好きにはなれない。そんな事を考えながら自分の意識が遠退いていくのを感じていた。
目を覚ますと、私は街を一人で歩いていた。どういうことなのか分からない。夢遊病にでもなってしまったのかも知れない。しかも、目を覚ました今でも身体がいうことを聞かない。あの催眠の途中で起きてしまった時のよう。私は私の意思とは別に話し、行動している。私の身体は他の人のものになってしまったみたいだった。私はしばらく私じゃない私を見ていた。そして分かった。これは私が今まで隠してきた私だって。人に嫌われないように必死で隠してきた私の個性だって。催眠治療で入れ代わってしまったみたいだった。それにしても変な気分。自分自身を客観的に見るのがこんなにも不思議なものだなんて思ってもみなかった。しかし、なんて嫌な女。女だということを最大限に利用している。もう一人の私ってこんな女だったんだ。でも、以前の私より断然楽しそう。この身体、もう私には動かせないけど、別に後悔はしていない。別の生活を望んだのは私で、その望み通りになったのだから。だから私は、映画でも見るように私の生活を見ていよう。脇役ばかりだった私が主人公の映画を。
その時、あの精神科医はというと…
私は自信を失ってしまった。精神科医を続けて行くのはもう無理だ。あんなことが起こるなんて…。