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自己嫌悪

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「ええ。確かに先ほどあなたを催眠に掛けました。しかし、あれはあくまでもあなたの本心を聞くためのもので治療ではありません。どういった治療をすれば良いかを知るための検査だったのです。私が今まで診察した患者は、適切なアドバイスで大抵治癒しました。でも、あなたは違います。アドバイスするための原因が見つからない。あなたの本心は全く治療を必要としていないのですから。どうも今のあなたとあなたの本心はなんらかの理由で離れてしまったようです。それを催眠で繋いで一つにします。多少強引なやり方になりますが。」
 そう言った先生の顔は少し怖かった。私は少し不安になり先生に聞いた。
「その催眠治療は難しいのですか。」
 すると先生はすぐに元のにこやかな顔に戻り言った。
「いいえ、治療事態はとても簡単です。しかも確実です。今まで失敗した例も殆どありません。」
 私はこれを聞いて余計に不安になった。この先生は果たしてこの治療をしたことがあるのだろうか。私は聞いた。すると先生は、
「確かにあなたのような患者は多くはありません。多くはありませんがいない訳でもありません。ただ…」
 先生は途中で話しを止めた。私は何も言わず、先生を見詰めていた。しばらくして先生は続きを話し出した。
「ただ…、この治療法は正式に認められていないのです。治療事態は簡単で確実です。催眠にかかった状態のあなたに起きている時のあなたの状態を話し、理解をしてもらうだけですから。暗示のように聞こえるかもしれませんが、暗示とは少し違います。例えば、嫌いなものを食べられるようにするのが暗示だとすると、あなたの嫌いなものが何か催眠状態のあなたに知ってもらうのがこの治療です。事実を説明するだけですから難しくはありません。しかし多少危険があるのです。もしも催眠の途中で目が覚めてしまったり、その患者の意思が私の意思に反発してしまったりすると何が起こるか分からないのです。ずっと目を覚まさなかったり、完全に別の人格になってしまったり、過去の記憶を失ってしまう可能性も無くはないのです。少ないながらそういった報告もあります。ただこの場合治療ではなく暗示になってしまったのではと私は考えているのですが。未熟な技術での治療のせいで曖昧な暗示にかかってしまったと。しかし、そのためにこの治療は正式に認可されなかった。」
 私は一つだけ確認をした。
作品名:自己嫌悪 作家名:もとはし