自己嫌悪
「なんだか、随分、寝ていたような、気がします。」
私はちゃんと自分が目を覚ましているかどうか確認しながらゆっくりと返事をした。今度はちゃんと起きられたみたいだった。そのことを確認してから、診察結果を聞いてみた。先生は少し困った顔をした。診察をしていた時と同じ顔。でもすぐ、にこやかな顔に表情を変えた。いかにも作り笑顔だった。そして、言葉を選ぶように慎重に話し始めた。
「私はあなた催眠に掛け、寝ているあなたに本心を聞きました。ほとんどの患者はこの方法で現在困っていることの原因を聞き出すことができるのですが…」
先生は少し考え込んでしまった。そして大きく息を吸うと、また話し始めた。
「あなたの場合は、原因が全く分かりませんでした。寝ている時のあなたはとても自信に満ち溢れていました。こんなことを言っては失礼かも知れませんが、今のあなたに比べると寝ている時のあなたは自信過剰なくらいにはっきりとした意思を持っていました。あなたが自己嫌悪で悩んでいるなんて、とても考えられない。」
先生は私を診察したことで、自信に揺らぎが出てしまったみたいだった。でも、そんなことはどうでも良い。私が自己嫌悪で悩んでいることは確かなのだから。何とかして治して欲しい。何で私がこんなことで悩まなくてはいけないの、何で…。いけない、また自己嫌悪に陥ってしまうところだった。本当は私だって分かってる。自分が自己嫌悪になる訳は、今の生活がいけないんだって。毎日毎日変化の無い単調な生活がいけないんだって。それをただ、他人に指摘されたかっただけなのに。生活を変えなさいって言われたかっただけなのに。自分で変えようとしても駄目だったから。それなのに先生は全然違うことを言っている。どうしてこんなにも簡単なことをわざわざ難しくしようとするの。先生の気に召さなかった?簡単すぎてつまらない?私はため息をついた。先生は私のため息に答えるように困った顔のまま言った。
「あなたがそんなに自己嫌悪になるのが嫌だと言うのなら、あまり薦められないのですが催眠治療で治すことは出来ます。」
「催眠治療はさっきやって駄目だったんじゃないですか。」
と、私は言った。