断頭士と買われた奴隷
夕暮れに染まる帰り道、前を歩くアーミラの姿を眺めていた。透き通るような長い銀髪は美しかった。毛先が揃っていないがそれは俺が切ったからだ。どうもこういう細かい作業は得意じゃない。失敗した時は随分と機嫌が悪くなって、なだめるのに苦労した事を思い出す。
それに背もかなり伸びたし、体つきも随分と女らしくなった。もう子どもとは言えないのかも知れない、そんな事を考えていた。
「ルージェ、どうしたの? さっきからずっと黙って」
いつ頃からだろうか、アーミラは俺の事をさん付けで呼ばなくなり、口調も親しげなものへと変わったのは。ごく自然に、ごく当たり前のように。ただそれを不快に感じることが無かったのでそのまま好きに呼ばせている。――なるほど、確かに主人と奴隷には見えないはずだ。
「いや、何でもない」
少し前まではずっと他人だと思っていたこの少女が愛しくて俺は笑顔で答えた。
「……昔ルージェって全然笑ったりしなかったのに、最近はよく笑うようになったね」
「俺だけじゃないだろ。お前だって最初は酷い顔してたぞ」
そうだったかな、とアーミラは誤魔化す。
「さっきのガスパドさんと何を話してたの?」
「……年頃の女の子が処刑小屋に出入りするのはどうかと思ってな、相談していた。そしたら俺まで辞めることになってな」
「収入が減るから残るって言ったんだが、それならお前と二人で働けばいいって言われた」
今の仕事を続ければ働くのは俺だけで十分だってのにとぼやく。
「お兄ちゃん、っていうのは?」
「端からだと俺とお前が家族みたいに見えるらしい。親子って程歳は離れてないから兄妹だとさ」
ふーん、と小さな反応をしたがそれだけだった。そんな冷めた反応をされると話した俺が恥ずかしく思えた。
じめじめとした路地裏を抜け、夕日が大きく見える表通りの坂に差し掛かったところでアーミラは話しかけてきた。
「そういえば初めて家に買われてきた時、私ルージェに抱かれようとしたよね。裸でさ。覚えてる?」
「突然何言い出すんだ。……そりゃまぁ覚えてるが」
「何で抱かないの、って聞いたらガキを抱く趣味は無いって」
あの時のことを思い出す。あの時のコイツは虚ろな瞳に細い身体で俺に抱かれようとした。今思えばアレは何も持っていない奴隷にできる唯一の行為だったのだろう。俺に抱かれる事で側に居ようとする、幼かったアーミラなりの努力に思えてくる。
「あれから背も伸びたし、身体も大人っぽくなったじゃない。胸は……大きい方じゃないと思うけど無くはない……と思う」
沈みゆく太陽を背景に俺へと振り返り、真剣にこう言った。
「ねぇ、御主人様。今なら抱いて頂けますか?」
作品名:断頭士と買われた奴隷 作家名:大場雪尋