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断頭士と買われた奴隷

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 道中暴れたり逃げようとするかと思っていたのだが大人しいものだった。
 家に着くなり俺は浴槽に湯を張る準備をする。俺の部屋、というよりこの貸屋には珍しいことに全室浴槽が備え付けられている。大家が風呂好きだからという噂だ。
 湯の準備ができると少女の手を引いて浴室に連れて行き、服というにはあまりにも貧相過ぎる奴隷用のボロ布を脱がせ、首にきつく装着されていた首輪を外してやる。よほど強く締められていたのか跡になってしまっていた。
「目を閉じろ」
 頭から何度か湯をかけて固まり付いていた老廃物をふやかし、そして石鹸で髪から身体を洗ってやる。石鹸を付けた布で少し擦るだけで真っ黒な汚れが流れていく。最後にもう一度湯をかけ石鹸を洗い流すと、汚れの下から透き通るような銀髪に美しい褐色の肌が現れた。水気を拭き取り、俺の持っていた大きめの肌着を渡す。女向けの服なんか勿論持っていないので仕方ない。
「あっちに行ってろ」
 浴室から先に追い出し、壁に飛び散った汚れを洗い流してから部屋に戻ると、そこには裸の少女がベッドの脇に立っていた。
「……何のつもりだ」
 俺の姿をみるなりすり寄り腕を絡めてくる。――もしや伽でもしようというのだろうか。
「……」
 感情の籠もっていない瞳をこちらに向ける。冗談じゃない、俺にはこんな子どもを抱く趣味は無いというのに。ベッドの上に放ってある肌着を少女に押しつける。
「着ていろ」
 少女がわずかに眼を見開く。ひょっとして驚いているのか? 今まで無機質な人形の様に感じていたが全く感情が無いわけではないらしい。
 ――ぐぅ。不意に少女の腹が鳴った。どうやら腹が空いているようだ。かくいう俺も少し空腹感を覚え始めていたので食事を取ることにした。
 少女が見ている中俺は夕飯の支度に取りかかる。作り置きのスープにちぎった干し肉と芋を入れ火を通す。それを皿によそい別の皿にライ麦のパンを盛る。支度と言っても簡単なものだ。
 テーブルの向かいに少女を座らせると俺は食べ始めた。しかし少女は俺の様子を見つめているばかりで一向に自分から食べようとしない。先程から腹の虫が鳴き続けているので食べたくない訳では無いのだろうと思うが。
「どうした、食べないのか? そっちの皿はお前の分だ、食べて良いんだぞ」
 そう告げると今までの静かさは何だったのか、一気にがっつき始めた。余程空腹だったのだろう、見る見る内にスープとパンが無くなっていく。
「……足りるか?」
 ピタリ、と食が止まった。俯いたまま黙って動こうとしない様子から察するに――全然足りないのだ。
 自分のパン皿から三つの内二つを少女の皿に乗せてやった。元々食の細い俺には残りとスープだけで我慢できる量だ。皿に乗せられたパンと俺の顔を交互に見る。それが「食べてもいいのか?」と聞いているように思えた。
「お前が食べろ。俺はこれだけあれば十分だ。もしスープのおかわりが欲しかったらまだ鍋に残っているから自分で注いで食べろ」
 それだけ言うと自分の食事を再開する。
「あ……あ…が……ありがと」
 ペコリと頭を下げると少女はスープ皿を手に鍋へと向かっていった。
 驚いた。こちらの言葉がわかる以上喋る事が出来るのも当たり前なのだが、あまりに突然だったので思わず面食らってしまった。今まで虚ろな眼をしていたが、今では爛々と輝く瞳でスープを啜っているそのギャップに思わず言葉を失ってしまった。
「……ッグ!? ゴホッ!」
「パンが喉に詰まったか!? ちょっと待ってろ!」
 グラスに葡萄酒を注いでやるとかなり切羽詰まっていたのだろう、少女はそれを一気に流し込んだ。
「!!!? カハッ、カハッ!」
 酒のアルコール分で盛大に咽せる。流石にこの歳で酒はきつかったのか、あっという間に顔が赤くなり、酔いで瞼もトロンと垂れてきた。
「おい、大丈夫か?」
「……」
 少女は答える代わりにユラユラと身体を揺らし――バタン、とテーブルに突っ伏した。
「……はぁ」
 どうやら一気に眠ってしまったようだ。仕方なく俺はその小さな身体を抱えベッドへと寝かせてやる。
「んん……」
 顔にかかった髪をそっと除けてやるとくすぐったかったのか身動ぐ。
「何故こんなことをしたのだろうな……」
 少女に言ったわけではない。これは自分自身への問いかけだった。しかしその答えはわからない。俺は少女の隣でそっと横になり静かに目を閉じた。
作品名:断頭士と買われた奴隷 作家名:大場雪尋