マ界少年ユーリ!
バズーカ砲は大蛇に当たって爆発を起こしたが、大蛇の硬い鱗についたのは黒い煤だけだった。
ジャドは冷静さを失わずに、さらなる隠し武器を出した。
「喰らえ、ネット通販で買った手裏剣セット!」
六方手裏剣、八方手裏剣、棒手裏剣と予約特典の忍者ストラップ!
卓越した業で投げられた手裏剣は大蛇の皮膚を貫いた――ストラップ以外はね!
だが、その程度の傷など大蛇にとってかすり傷。
ジャドは鎖の付いた巨大な鉄球を出した。
「ネット通販で在庫希少の魔人の鉄球!」
ジャドは自分の体よりも大きなトゲトゲ鉄球を振り回して、大蛇の巨体にヒットさせた。
鉄球を喰らった大蛇がバランスを崩した。
思わずユーリは感嘆を漏らす。
「武器が通販なのは怪しいけど……強い」
そう、ジャドは自分から売り込むだけあって強かった。
怒り狂う大蛇の攻撃をジャドはかわしながら、互角――いや、ジャドのほうが押しているくらいだ。
命を賭ける戦いは他人に任せて、ユーリはこっそりリンゴを採りに行こうとしていた。
だが、突然どこからか鳴り響くアラーム音!
まさかリンゴを守る警報アラームなのかっ……と思いきや、アラームはジャドから聴こえていた。
ジャドはピタッと戦うのやめた。
「お試し版なので三分間しか活動できない。では、検討を祈る!」
あっ……消えた。
紙ふぶきに包まれながらジャドは姿を消してしまった。
思わずユーリが叫ぶ。
「お前はどっかのヒーローかっ!」
中途半端にジャドが攻撃をしたため、大蛇はそーとープッツンしていた。
ジャドの登場は状況を悪化させただけだった。
ありえねーっ!
……さてと、気を取り直してユーリは逃げる準備をしていた。
「お父様が厳しくてウチの門限六時なんです、帰らなきゃ♪(ウソだけどね!)」
ウソかよっ!
何食わぬ顔をしてユーリは逃げようとしたが、すでに逃げ場は失われていた。
長い大蛇の体がぐるりと柵のようにユーリたちを囲んでいたのだ。
「覚悟しろ、この地を荒らす罪人よ!」
大きく開いた大蛇の口からよだれが零れ落ちた。
そのよだれをバシャンと頭から浴びて、現実世界に呼び戻されたルーファス。
「ここは…… うわっ大蛇」
ルーファスは現実を放棄して気を失った。
使えねぇーっ!
最初からルーファス本人(・・)になんかユーリは期待してない。
ユーリは一か八かの賭けに出た。
「秘儀〈他力本願〉発動!」
その叫び声に合わせて気絶していたハズのルーファスが立ち上がった
まさかルーファスったら、お茶目に死んだフリだったのか?
いや、違うようだ。
ルーファスは口から泡を吐いて、首をガクンとさせている。マジ気絶だった。
ユーリの指先が糸で吊るされた人形を操るように動く。すると、それに合わせて盆踊りをするルーファス。
「よし、この技は使えるみたいね」
満足そうにユーリは笑った。
そう、気絶しているルーファスを操っているのはユーリなのだ。
秘儀〈他力本願〉とは、勝手に誰かの身体を操ってしまう他力本願な技なのだ。しかも、自分の意思で動いていないので、潜在的な能力を発揮できてしまう特典付き。
ルーファスに構えさせ、ユーリが叫ぶ。
「マギ・サンダー!」
天から召喚された稲妻が大蛇に落ちた。
痙攣した大蛇が地震を起こす。
揺れで思わず地面に手をついてしまったユーリに大蛇が襲い掛かる。
ユーリはすぐにルーファスを操る。
「ゆけっ、ルーファスミサイル!」
宙を浮いてぶっ飛んだルーファスの頭突き!
アゴにアッパーカットを喰らった大蛇が倒れて後頭部を強打した。
ついでにルーファスのグルグル眼鏡も粉砕。
泡を吐いて気を失った大蛇。
素顔を露にしたルーファス。
そして、目を輝かせたユーリの胸がトキメク!
「イケメン!」
な、なんと……というか、お約束的にルーファスの素顔はちょーイケメンだったのだ。
でも、やっぱりここはルーファスクオリティー。
「……やっぱりイケてないかも」
白目を剥いたルーファスは口から泡を吐いていた。キモメン!
幻滅して気を取り直したユーリは最後の止めを刺そうとした。
ルーファスの周りに魔力の象徴マナフレアが発生する。蛍火のようなマナフレアが次々と浮かび上がる。
思わずユーリは歯を食いしばった。
「凄いマナ……(ただのへっぽこ魔導士だと思ってたけど、なんて恐ろしい潜在能力なの……こんなことありえない!)」
凄まじく膨れ上がるルーファスの力をユーリは制御しきれなかった。
「(このマナの感じは……まさか……あの人)」
気を失っていたハズの大蛇がゆっくりと身体を起こした。
ユーリは魔法を放とうとしたのだが――。
「我の負けだ」
大蛇が負けを認めたのだ。
でも、ちょっぴり遅かった。
ニッコリ笑顔のユーリちゃん。
「ごめん、力が抑えきれない♪」
次の瞬間、巨大な爆発を起きて辺りは砂煙に隠された。
ご愁傷様ですね!
ドクロマークの煙が遠くからも観測できるほどだった。
しばらくして、だいぶ煙が治まってくると、どこからか小さく咳き込む音が聞こえて来た。
「ゲホゲホッ……マジ死んだかと思った(あれ、でもどうしてアタシ無傷なの?)」
驚いた顔をするユーリは気づいた。自分を守ってくれたのは大蛇だったのだ。
大蛇は自分の舌に乗ったユーリを地面に下ろした。そう、ユーリを口の中に入れて爆発から守ったのだ。
ユーリは瞳を輝かせて大蛇を見つめた。
「ありがとうございます……でも、ベトベトになった服のクリーニング代はあとで請求させていただきますから♪」
大蛇は呆れた顔をしている。
「誰が助けてやったと……まあよい、金は持ち合わせておらぬが、お前たちの強きマナに敬意を表して道を開けよう」
「やった、これで?ロロアの林檎?が手に入るわ!」
ユーリは飛び跳ねて喜びを表した。
しかし!
ここで大蛇の爆弾発言――。
「この先には?ロロアの林檎?などないぞ」
「はっ?」
許容範囲を通り越した驚きにユーリは頭が真っ白になった。まるで『夢オチでした!』くらいの呆気の取られ方だ。
スイッチの入ったユーリは激怒した。
「んだとぉ! ふざけんなよ、どんだけアタシが苦労したと思ってんだよ!」
「そう男みたいに怒るな魔族の娘よ」
「男とか言うなよ!」
「怒りを静めてよく聞け、この先にあるのは?ロロアの林檎?ではなく?智慧の林檎?じゃ。?ロロアの林檎?なら……ほら、あっちの売店で売っておるぞ」
「はっ?」
一気にユーリの怒りが冷めた。
大蛇が顔を向けた先には、観光地によくありそうな?おみやげ屋さん?があった。定番のバッタもんTシャツや木刀まで売っている。
「ありえねーっ!」
ユーリの叫び声が不毛の大地に木霊した。
そのころルーファスは――地面に埋もれてかくれんぼをしていた。
「暗いよぉ、狭いよぉ、怖いよぉ、誰か助けてよぉ」
頑張れルーファス!
負けるなルーファス!
僕らは君の不幸を見てあざ笑う!
第1話おしまい
作品名:マ界少年ユーリ! 作家名:秋月あきら(秋月瑛)