悪魔の微笑みの男
「両親には、かなりの問題があった」
ということは間違ってはいないが、それよりも、一番の問題というのは、
「双子が生まれたことで、姉を里子に出した」
ということであった。
そのことは、ずっと隠されてきたことであって、
「墓場まで持っていく」
というつもりだったが、結局は、
「道子には話してしまった」
ということであったが、それでも、他に知る人というと、
「召使」
として、姉を押し付けられた家族しか知らないということであった。
そのはずだったが、
「まさかあの家族があれほどひどいとは思っていなかった」
ということで、
「姉の家庭は崩壊した」
といってもいい状態で、しかも、
「ストーカーに狙われる」
ということから、最後には、道子も巻き込まれる形で、
「ダブルで脅迫を受ける」
ということになったのだ。
それを考えると、
「この複雑な家族関係と、それを取り巻く環境」
というものが、ややこしい状況を生んでいるといっても過言ではないだろう。
その脅迫内容というものは、
「それぞれに違っている」
ということであったが、その根底にあるものは、同じだといってもいいだろう。
その根底というのが、
「双子を忌み嫌って、里子に出した」
ということであった、
それを知った脅迫者は、そもそも、
「ゴシックばかりを書く、ちょっと悪徳な雑誌記者」
ということであった。
「雑誌だけを書いていればいいのに、欲が出たのか、脅迫に走ってしまった」
ということで、それが男にとっての、
「命取りにもなった」
ということである。
要するに、
「たった一人で根拠も明かせない状態で、しかも、二人を同時に脅迫に掛かる」
などということは、
「それこそ無謀だ」
といってもいいだろう。
それを考えると、
「この男を待っているのは、死という結末だ」
ということで、
「それこそが、悪魔の微笑みの滅びる時」
ということであった。
しかも、この男の抹殺は、
「誰にも知られず」
もっといえば、
「この男は、この世に最初から存在などしていない」
といってもいいのかも知れない。
「こんな男、最初からいなかったんだ」
ということにすれば、どれほどの人が助かるか?
ということで、それだけ、
「この男が持っていた引き出しが多く、脅迫予備軍という人がたくさんいた」
ということだったのだ。
それを思えば、
「死ぬべき人物だった」
ということで、誰が手を下したのか、まったく公開されることはなかった。
そもそも、
「抹殺されたことすら表に出ていない」
だから、もし誰かが探したとしても、
「捜索願が出された」
ということで、しかも、
「事件性はない」
と言われることから、最終的に、
「まったく捜査はされない」
ということで終わってしまう。
「死体の処理」
というものには長けている組織によるものなので、それこそ、
「完全犯罪に近い者だった」
といってもいいだろう。
だからこそ、
「完全犯罪などありえない」
とは言われるが、そもそもの、
「事件性がない」
と警察に思わせれば、
「それで勝ちだ」
といってもいいだろう。
それが、警察にとっては、
「盲点」
ということであるが、そもそも、
「事件が起きないと動かないのが警察だ」
ということなのだから、それも当たり前ということになるだろう。
それから、8年という歳月が経った。
それは、
「道子が、社長になった専務と結婚することで、遺言書が執行される」
という時だったのだ。
その時になると、誰もが、
「道子が、その遺言を受け、社長夫人に収まる」
ということが、
「今さらのことである」
ということから、もう誰も関心がないことだったといってもいいだろう。
だから、誰もこのことで騒ぐ人もおらず、完全に、
「人のうわさは75日だった」
ということである。
ただ、それも、あくまでも、
「予定通りに執行される」
ということが大前提ということからであった。
実際には、
「道子が、その遺言書の執行を拒否する」
ということから、崩れたのだった。
ただ、それは相手の社長の方も分かっていたようだ。
つまり、
「お互いにそのつもりで、最初から覚悟を決めていた」
といってもいいだろう。
そうなると、
「道子と社長には、遺産相続において、法的な相続以外には、一切かかわることはできない」
ということであった。
つまりは、
「遺産のほとんどを放棄した」
ということである。
世間では、
「かなりのセンセーショナルな話題」
というものを振りまいたようで、その焦点は、
「では、遺産はどうなるのか?」
ということで、その時初めて世間は、
「もう一つの遺言書がある」
ということが分かったのだ。
あの、
「悪魔の微笑みの男」
の脅迫の正体は、実はこの、
「もう一通の遺言書」
ということであった。
それを調べようとしていたのだが、さすがに、
「大きな力の前では、まったくの無謀だった」
といってもいいだろう。
しかし、この男はある程度のことを知っていたのではないだろうか?
その証拠というのが、もう一通の遺言書に書かれていることというのが、
「もし、道子と、社長が死ぬことになるか、拒否した場合として、その権利のすべてを、里子に出した姉に相続させるものとする」
と書かれていた。
そして、そこには、
「結婚に関しては何もなく、あくまでも、無条件に譲られる」
ということだったのだ。
それだけ、祖父母は、
「姉に対して、申し訳ない」
という思いを抱いていたのだろう。
実際に、道子もそのことを分かっていたから、拒否したのだ。
さらに、そんな行動に出たということを示唆することができるのは、例の、
「悪魔の微笑みの男」
の存在が大きかったと言えるだろう。
( 完 )
64



