僕たちは何故かプロレスに憧れた
僕の中には確信があった。SASAKIが言っている相手というのは僕だという確信が。
「SASAKIが言ってる相手って多分サトシの事だろ?」
「そうか?」
「そうだろ?」
「でも俺プロじゃないぜ?」
「じゃあなればいいじゃん?どうせ暇だろ?」
ヒロの言葉で僕は目が覚めた。次の日僕は自宅で入るプロレス団体を選んでいた。色々あるプロレス団体の中で僕が選んだ団体は榊参五郎選手が社長を勤めるGDTプロレスリングだった。選んだ理由は色々あるか最大の理由は僕の憧れるSUDO選手がいるからだ。学生プロレス時代の僕は見た目からファイトスタイルからSUDO選手のコピーだった。名前もSATOSHIとしていたくらいSUDO選手のファンだった。それにSASAKIが所属しているプロレスリング・メシアと提携しているのも魅力だった。ちなみにGDTというのはグレート・ドリーム・チームの略だ。僕にはグレートドリームが必要だった。そんな事もあり僕はGDTプロレスリングに履歴書を送った。後日GDTから電話があり入門テストをしてもらえる事になった。
その11
試験当日GDTの団体事務所に着くとそこには社長の榊選手と団体の旗揚げからGDTに在籍するMISAKI選手と憧れのSUDO選手がいた。この三人が今回の試験官らしい。僕は三人の前で基礎体力テストをやりどうにかクリアした。次に社長の榊選手との面接が始まった。
「え~っと、ウエダサトシ君、年が28歳。ちょっと年齢いってるけど大丈夫?」
「大丈夫です」
「学生プロレス時代の実績って何かある」
「一応、連盟の無差別級のタッグベルトを取りました」
「なるほど凄いね。他には?」
「あとシングルのベルトに挑戦が決まってたんですけど…」
「ですけど?」
「直前に親友が死んで、それで…」
「なるほどね。学生ならそれで良いけどプロのリングではそうはいかないよ。それは大丈夫?」
「大丈夫です」
「ところで何で急にプロになろうと思ったの?」
「プロレスリング・メシアの佐々木選手と闘いたんです」
「何で?」
「連盟のシングルのベルトに挑戦する時のチャンピオンが佐々木選手だったんです」
「なるほど」
榊選手は黙った。僕はそれをただ見ていた。
「相当、困難な道程だぞ?業務提携しているとはいえ簡単じゃないぞ?出来るか?」
「やります」
「よし、頑張れ」
「はい!」
こうして僕はGDTの一員となった。
その12
GDTの一員となった僕は新弟子としてGDTの興行に付いていった。GDTは決して規模は大きくはないが僕が入団する何年か前に両国国技館大会を成功させたような勢いのある団体だ。社長の榊選手は非常にクレバーな人で従来のプロレス界にはなかったアイデアを持っている人だ。この人か社長じゃなかったら僕はプロレス界に入れなかっただろう。厳しい新弟子生活が半年程たった頃新木場のバックステージで榊社長に声を掛けられた。
「来週デビューだ」
僕は驚いた。だが次の瞬間喜びが込み上げてきて思わず笑った。
「はい」
僕はそう返事をした。その勢いのまま榊社長は僕を興行の第一試合開始前のリングに連れていった。僕の横で榊社長がマイクを手に取り喋りだした。
「え~、私の横にいる練習生のウエダサトシですが来週の新木場大会でデビューさせます!」
会場から「頑張れ!」という声が聞こえた。
「リングネームはSATOSHI。デビュー戦の相手はSUDO!」
お客さんは沸いた。そして僕は驚いた。まさかデビュー戦がSUDOさんなんて…頭が真っ白になったまま僕はお客さんに挨拶をした。何を言ったかは覚えていない。バックステージに帰るとSUDOさんが僕に近づいてきた。SUDOさんは右手を差し出して「よろしく頼むわ」と言った。僕はその右手を強く握り返した。
その13
デビュー戦当日。この日に向けてコスチュームを用意したショートスパッツタイプのコスチュームで色は緑と銀だ。それを見た榊社長は
「宮沢さんみたいだな」
と言いGDTの若きエースでGDTの無差別級チャンピオンでもある飯星宗太さんも
「宮沢道晴風でカッコいいじゃん」
と言ってくれた。この日の僕の記憶はこの後の入場した所で切れた。緊張のあまりどんな試合をしたか全く覚えていない。気がついたら僕は新木場のバックステージで横たわっていた。色んな先輩が声を掛けてくれた。こうして僕はプロレスラーとしてデビューした。その日の夜、CSのプロレス情報番組で僕のデビュー戦の模様が流れた。酷い試合だ。でも正直嬉しかった。両親やヒロ、マツのお母さんからも「おめでとう」とお祝いの留守電が入っていた。僕は嬉しくなった。そんな浮かれた僕の気持ちを引き締めたのは次に流れたニュースだった。
「プロレスリング・メシアの佐々木実選手がリングネームをSASAKIに変更するという発表がありました」
とキャスターは言った。僕はそのニュースからSASAKIなりの祝福のメッセージを感じ取った。僕は気合いを入れ直した。
その14
SUDOさん相手のデビュー戦から三年。僕は異例の速さでGDTの頂点「KO-G無差別級」に挑戦する事になった。デビューから三年間で積めるだけ実績を積んできた。それも人の何倍ものスピードで。それが認められる形で無差別級のベルトに挑戦出来る事になった。チャンピオンは飯星さん。「プロレス界の未来」と評される人だ。プロレス界には「ホウキ相手でもプロレスが出来るのが一流選手」と言う言葉がある。しかし飯星さんはGDTに参戦するカツヒトというダッチワイフを相手にシングルのタイトル戦、しかも聖地後楽園ホールのメインで名試合をやってのけたプロレスの達人でしかも常人には不可能な飛び技をいとも簡単にこなしてしまう天才だ。それでいてキックボクシングの出身で打撃も強い。正直、隙がない。僕は久しぶりに頭を悩ませる事になった。体格的には一緒くらい。スピードは飯星さん、パワーは辛うじて五分五分。飛び技の多彩さは飯星さん。僕が得意な打撃ですら飯星さん…と考えれば考える程気分が落ち込んできた。そこにHARADAさんがやってきた。HARADAさんは僕の顔を見て話しかけてきた。
「飯星対策でも考えてんの?」
やたらと無邪気な笑顔だった。
「考えれば考えるほど飯星さんに隙が無くて困ってます」
「じゃあ、全力でぶつかれば?」
あんまりにHARADAさんの無邪気な笑顔に僕も思わず笑った。
「そうっすね」
覚悟を決めた僕の顔を見てHARADAさんはまた無邪気に笑った。その後HARADAさんと夕食を食べに行くとジーノさんが合流した。ジーノさんはリングネームを「男色家ジーノ」といいリングネーム通りのゲイキャラだ。いやジーノさんの場合ははガチでゲイだ。だから普段からオネエ言葉で喋る。
「タイトルマッチ前で悩むのは良く分かるわ。でもやるしかないのよ。やるしか」
ジーノさんが言うと違う意味に聞こえて仕方ない…
「とりあえずやるしかないのよ」
「分かりました」
作品名:僕たちは何故かプロレスに憧れた 作家名:仁志見勇太