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しらじら

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「えっ?」
僕は、聞こえた声に答えてしまいました。
しまった!と後悔が胸にぶつかるように押し寄せてきました。それに もう無視はできません。僕の足は止まっていました。
しかし、次の言葉は僕には用意されていません。何を言っていいのかわからないまま立ち止まっていると、彼女が言いました。
「失くしてしまいました。本」
「……ほん?」
「大切にしている本。帽子を風に飛ばされないように押さえているのに一生懸命で…」
「それなら、この辺りに落ちているんじゃないですか?」
「そうだといいのですが…」

僕は、ちょっとかわった雰囲気の彼女の口元と薄紅色の艶やかな膨らみから流れ出る声と言葉にときめきを感じました。
「捜しましょう」
通りすがりの人に手助けの声を掛けるなど 今までの僕には恥ずかしくてできないことでした。でも、この夜、あの仕事を終えた僕の気分は それを容易くやってのけることができました。

その捜し物は、数分とかからず見つけることができました。
不思議なものです。隠れていそうな所を捜していても見つからず ふと目を向けた所で見つかること。そういえば、あの書類もそうでした。案外、なにげない所を見落としているものです。

「ありがとう」
彼女の言葉に「あ、どうも」と応えた僕は なにか淋しさを感じました。
これでおしまいか…… なんて素性もわからない彼女との通りすがりの出来事。この数分だけの出来事にとても暖かく癒された気がしました。クリスマスイブの小さな贈りもののような気さえしました。
でも、僕にはその先をねだる勇気も気取った言葉もありません。
「あ、いや」
こころの中では「見つかってよかったですね」の一言も用意できていたのに声にはならず、表情もきっと愛想のない笑みにもならない顔つきだろうなと思うばかりでした。

作品名:しらじら 作家名:甜茶