夢のあれこれ
その声は、誰にも聞こえないのか、マスターは一切反応しない。つかさがまるで、
「この世のものではない」
と言わんばかりに目を見開いて、男から目が離せないという感じだったのだ。
すると、つかさは、一瞬身体が固まってしまい、意識を失った。
正確にいえば、
「魂が抜けてしまった」
ということである。
その時のつかさは、
「義男が死んだ病室」
にいた。
「義男が完全に意識をなくし、顔色も土色になってきていた」
といってもいいだろう。
しかし、
「何かがおかしい」
と感じたのは、その場で誰もが凍り付いたように動いていなかったからだ。
「いや動いていないわけではない。スローモーションになっているんだ」
ということだったのだ。
次の瞬間、男がカッと見開いた。
「あっ、気が付いた」
という声が聞こえた瞬間、凍っていた空気が氷解し、時間も動き出したのだった。
医者が呼ばれて、
「意識が戻りましたね。もう大丈夫です」
といって、ホッとしていた。
「あれ? さっきまで死んでいたのでは?」
と感じたが、皆、それをまるで忘れたかのようだった。
どうやら、義男の身体に、バーで崩れていた男が乗り移ったようだった。
つまり、
「人が蘇生するということは、誰かと魂を入れ替えるしかない」
ということで、それが、今回うまくいったということであろう。
そして、他の人にそのことが気づかないというのは、今回のように、
「まわりの人には分からないようになっているんだ」
ということであった。
ただ。これは、実際には、
「夢で見た」
ということであり、それを、
「予知夢」
というのであろう。
そう思っていると、
「いろいろ分かってきた気がする」
ということであった。
「予知夢を見る」
ということだけではなく、その時に、
「夢を共有する」
という、
「本来であれば、当たり前のことというのが、意識された時だけに、予知夢という形で実現する」
ということになる。
ただこれは、
「偶然が重なった」
ということではなく、
「必然なこと」
といってもいいだろう。
むしろ、
「現象が偶然の積み重ね」
ということではなく、
「これ理解できるかできないか?」
ということが問題となるのである。
だから、蘇生ということから、
「夢の共有」
ということで、
「同じタイミングで入れ替わる」
というこが可能ということで、しかも、それは、
「死んだ人間同士でなければいけない」
ということではない。
あくまでも、
「死んでいようが生きていようが、相性というものが合いさえすれば、その気持ちをそれぞれに納得できれば、魂の入れ替わりは可能」
ということであろう。
「不可能なことは起こりえない」
という発想ではなく、そもそも、
「世の中に不可能なことはないのだ」
という、極端な発想でも、逆を考えて納得できるのであれば、
「それも正解だ」
といってもいいのではないだろうか?
今回、つかさは、
「離婚しようかどうしようか?」
と考えている中で、実際に、離婚をしないと考えたのだが、
「自分には、今まで浮気相手はいなかった」
ということを納得させることで、まとまったことだった。
実際に、今の浮気相手というのが、
「秋山義男」
ということであり。自分の夢の中で、
「交通事故でひき殺した」
という意識があった。
その意識が自分を納得させてくれると感じたのだが、
「彼を殺すのは、私しかいない」
という、不可思議な感覚に見舞われていたのだ。
だから、
「義男が交通事故に遭って死んでしまう「」
という夢を見てしまい、それを、
「予知夢だ」
と思ったのだろう。
しかし、これが本当に、
「予知夢なのか、正夢だったのか?」
ということは自分でも分からない。
結果、夢ではなく、本当のことであり、結果として、
「離婚するということはない」
という、
「正夢として成就した」
といえるのではないか。
「成就」
ということなので、自分にとって悪いということではない。
しかも、夢としては正夢だった。
ただ、これはあくまでも、
「原点に戻った」
ということで、それこそ、
「スタートライン」
ということだ。
そもそも、スタートラインというのは、
「自分が逃げることのできない地点に立った」
といえるのではないかということであり、本当に、
「正夢なのか?」
あるいは、
「予知夢なのか?」
そのことを知る人は、人間としてはいないのかも知れない。
( 完 )
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