太宰治令和にやってくる
にんちゃん「すごい色がシュールですけどねえ。白菜、えのき、豆腐、魚肉ソーセージ、なんか真っ白っていうか」
パオちゃん「じゃあシロ鍋か」
かんちゃん「白鍋最高。貧乏食」
太宰「これは食べ物なのか」
真央「一人暮らしはお金がかかるのよ」
にんちゃん「理事長に頼んで給料もっと上げてもらったら」
真央「散々頼んでる、頼んでもあの人ビジネス、ビジネスしか言わないから」
パオちゃん「そんな話俺達に行っていいの?」
にんちゃん「聞きたくなかった」
かんちゃん「まあ、俺達は生きてるだけで合格だって輩ですから」
太宰笑う。
真央「太宰さん面白かった?」
太宰「君たち、僕と同じ統合何とかっていう病気なのに、本当陽気だね」
真央「だから、疲れるの」
太宰「なぜそんなに陽気にいられるのか?」
かんちゃん「太宰さんは陰キャですよね」
太宰「なんだそれインキャ?」
かんちゃん「陰気なキャラ、陰気なキャラクターの略」
太宰「君は僕に恥をかかせるのか?」
パオちゃん「別に陰キャなんていっぱいいるよ。恥ずかしいことじゃない」
真央「そうよ。たいてい陰キャの相手より陽キャの相手の方が仕事として疲れるの」
かんちゃん「またそうやってすぐ本当のことを言う」
太宰「僕は底なし沼の人間だ。みんなと違って滅びゆく存在」
かんちゃん「太宰さん、映画監督の僕から言わせてもらうけどね。作家と言えども空気読まなきゃ。わざわざ空気悪くすることは言わない」
太宰「僕と同じ空気吸いたくないってことか。だから僕はいない方がいいんだろう」
にんちゃん「そうは言っていない」
太宰「同じことだ」
パオちゃん「太宰さん出身地はどこたっけ?」
かんちゃん「そんな常識映画を撮るものなら誰でも知っている。青森県金木町」
パオちゃん「青森出身か。いいなあ。俺も生まれ変わったら青森から生まれたいなあ」
太宰「君、嫌味はやめたまえ」
パオちゃん「嫌味じゃねえよ」
太宰日本酒を口にする。
かんちゃん「豆腐が無駄に多いですねえ」
真央「それ賞味期限昨日で切れてるから、冷蔵庫の豆腐全部入れたの」
にんちゃん「賞味期限切れを俺達に?」
真央「一日くらい平気でしょ?」
パオちゃん「でも、俺達のこと相手にしてくれる女性って、デイケアのスタッフか、アキバのアイドルかメイドさんくらい」
にんちゃん「そお、みんな何らかの料金が発生してるんです。リアルな女性の付き合いないもんなあ。俺達。その点太宰さんはいいよなあ」
太宰「僕が?」
にんちゃん「だってイケメンじゃん。可能性ある」
パオちゃん「うん。うん。可能性ある。可能性アリアリじゃん」
太宰「イケメンて顔がいいということか。僕をよく思えば、余計に僕の本当の姿を知ったら女性は怯える」
かんちゃん「あのねえ。太宰さんねえ。作家だか何だかしらねえが、そうネチネチすんのやめた方がいいんじゃない」
太宰「僕は特別だ」
かんちゃん「特別、特別って一生特別扱いでいいの?」
太宰「ああ、いいさ。一人で静かに死んでいきたい」
かんちゃん「そういう感じの特別って辞めようよ。もう特別扱いから卒業しようよ」
太宰「卒業って君が僕の何を知ってる?」
かんちゃん「知らねえよ。知らねえから、こうして鍋つついて分かり合おうとしてんじゃねえか」
太宰「分かり合いたくても……君に悪気がないことは分かる。ただ申し訳なくて」
にんちゃん「申し訳ないって何が」
太宰「僕のことを知ったらきっと……」
にんちゃん「だから何で太宰さんのことを知ったらそんなに大きな問題なの?」
太宰「君、偽善者ぶるのはよしたまえ」
にんちゃん「ああ、偽善者で十分だよ。それでも向き合おうとしてるの。分かる?」
太宰「僕は女中に育てられた」
パオちゃん「僕達も社会に育てられた」
太宰「君たちは明るい。金の切れ目が縁の切れ目ということなく、三人本当に友達じゃないか」
かんちゃん「太宰さん友達いないってこと?」
太宰「僕は寂しい人間だ」
かんちゃん「友達なら僕達じゃ駄目なの?」
太宰「同情してるつもりか?」
真央太宰の頬に平手打ちする。
真央「いい加減にしなさいよ。みんなあなたを輪の中に入れようとしているのよ。それを何よ。あんたさっきから。あんたそんなに偉いの?何様よ」
太宰「年増のセーラー服姿の子に平手打ちされるとは滑稽だな」
一同「……」
太宰「僕は本当のことを言ってるだけ」
一同「……」
太宰「たださっきから聞いていると、みな僕のことを怖いと思わないのかい?」
パオちゃん「思わないよ」
太宰「僕は自分の本当の姿を人に知られると思うとそら恐ろしいんだ」
パオちゃん「俺なんか女子に面と向かって怖い、怖いって何度も言われたことあるよ。眉間にしわを寄せて、なんか気味の悪いものでも見るような目で」
太宰「つまり君たちは本気で僕と友達になろうと茶番じゃなくて」
かんちゃん「茶番じゃねえよ。本当の友達だよ」
にんちゃん「そうだよ。さっきからそう言ってるじゃねえかよ」
太宰が笑う。
真央「太宰さん。今度は何よ」
太宰「いや本気で僕とつながろうとしているのか。未来の世界ってすごいんだな」
真央「ここの三人だって今は明るくしているけど。いろいろあったのよ。みんな最初デイケア来たときは全然しゃべらなかった。いやしゃべれなかった。みんないろいろあったのよ。あなただけじゃない」
太宰「そうか。僕に友達か。未来の風変わりな陽気な人が友達か」
太宰笑う。
にんちゃん「太宰さん。シリアスな顔もいいけど。笑った顔も最高ですよ」
太宰「何だか気持ちがうれしくて。明るい気分だ。こんな感覚生まれて初めてだ」
かんちゃん「そお」
真央「鍋もう終わりね。食べちゃって。太宰さん魚肉ソーセージ鍋どうだった?」
太宰「秀逸だよ。どんな銀座の高級鍋より今日食べた鍋の方が秀逸だ」
かんちゃん「よっ天才作家」
真央「あー。終電もうないんじゃないの?もしかして」
にんちゃん「じゃあ泊まって行けばいいだけの話でしょ」
真央「人の家を簡単に言うな」
〇三人キッチンで寝る。
太宰真央と同じ部屋の床に敷いてある布団に座っている。真央はベッドに座っている。
太宰「明るい三人たちだ」
真央「でもよかった」
太宰「何が?」
真央「よかったって。よかっただけでいいじゃない」
太宰「そうだな」
真央「これからどうしていくつもり?作家活動とか」
太宰「作家か」
真央「……」
太宰「もう僕は書きたくない。人間失格みたいな小説は書きたくないんだ。庶民になれるものなら、そうなりたかったさ。今からでも僕は庶民として生きていく権利はあるのかね」
真央「あるよ」
太宰「なら、筆をおきたい」
真央「おめでとう」
太宰「おめでとう?」
真央「あなたにとっての成長よ」
太宰「この時代は都合がよすぎる。まるで嘘みたいだ」
真央「……」
太宰「僕はこの時代に来て少し俗っぽくなったのかな。最近よく思うんだ。たった一人の子育ては、ノーベル賞より尊いってね」
真央「あなた今本当にいい顔してる」
太宰「君もこっちにおいで」
真央太宰に近づく。
太宰「顔を見せて。君も綺麗だよ。僕にとってのマドンナ」
真央太宰の身体に手を回す。
作品名:太宰治令和にやってくる 作家名:松橋健一



