太宰治令和にやってくる
太宰「生きててよかった。キスしていい?」
真央「うん」
真央太宰とキスをしようとする。そのときにんちゃんが起きる。
にんちゃん「何か敵が動いている気配。だれか侵入してきたか。あれっ俺夢見てたんだ」
にんちゃんまた寝る。太宰と真央離れる
〇真央と理事長久末がホームの事務所にいる。
真央「タイムパラドックス?」
久末「ああ、彼は今自傷他害もなく精神保健法32条、つまり保護入院にも適用しない。彼が自殺する意思がないと、時代の流れに矛盾が起きるらしい。私の知り合いの片桐君と言うその道の人に聞いたんだが」
真央「で、どうなるんですか?」
久末「数日後、彼は昔の時代に戻る。そして我々の記憶も消える」
真央「そんな」
〇真央の自宅
真央「ただいま」
太宰「おかえり」
真央「あら、もう一人で一杯やってんの?」
太宰「ああ、なんか気分が良くてね。妙に気分がいいんだよ。俺もこの世の中で、何かの役に立ちそうなんでね」
真央「……」
太宰「本当に愉快なんだよ。この間食べた白菜とえのきと豆腐と魚のソーセージとやらの鍋、ありゃあ、どんな銀座の高級鍋より秀逸だった」
真央微笑む。
真央「あなたの主治医から聞いた。この時代の抗精神病薬、あなたの飲んでいるリスパダールは特効薬。私から見ても症状が良くなっている。32条適用にはならないから、病院には入れないけどよかった。入院の必要がなくなって」
太宰「……」
真央「これからは社会復帰して未来のことも考えていかなくちゃね」
太宰「……ああ」
次の日デイケア
かんちゃん「タイムパラドックス?」
にんちゃん「太宰さんはもうすぐ過去に?」
真央「うん。そうなるはず」
パオちゃん「ところで太宰さんは今どこに?」
真央「今朝からいなかった。朝早く出て行った。昨日は妙に陽気にお酒を吞んでたのに。二日酔いにならないのかな」
かんちゃん「でも太宰さんデイケアにも来てないし」
パオちゃん「メイドカフェに行ったか」
真央「まさか、あんなに嫌っていたし」
かんちゃん「そう言えば昨日デイケアの帰り太宰さん溝永さんの甥っ子さんの誘拐事件のこと、しつこく聞いてきた」
真央「えっ、太宰さんが誘拐事件?」
かんちゃん「誘拐された水谷リク君の倉庫には人体感知センサーがあって、人が常に誰かいないと爆発するってこと」
真央「それだけ?」
かんちゃん「それから太宰さんはもし誰かが身代わりに倉庫に入れば、リク君は倉庫から脱出できるってことって訊いてきた」
にんちゃん「それってもしかして」
真央「私家に戻ってみる。何か手がかりがあるかも。かんちゃん、にんちゃん、パオちゃん」
三人「うん」
〇真央の自宅
かんちゃん「何か手がかり」
にっちゃん「キッチンにもテーブルにもない」
パオちゃん「ここ太宰さんの寝床」
真央「あった?」
パオちゃん「ありませんねえ」
真央「太宰さんが使ってた戸棚にはないし」
かんちゃん「溝永さんの引き出しとかは」
真央「えっ、私の」
かんちゃん「うん」
真央「私の……あれ何かある」
にんちゃん「何これ」
パオちゃん「遺書って書いてますね」
真央「遺書、ちょっと太宰さん」
かんちゃん「溝永さん読んで」
真央「えっ」
かんちゃん「早く」
真央「読むわね。ええ、この時代に来て愛情というものを知った。人と交わりあうことを知った。僕のような偏屈なものでも許容するなんて、最初みんな僕をだまそうとしているのかと思った。だんだんみんなのことが信じられるようになった。精神保健福祉士、未来には素晴らしい仕事があるんだな。数か月僕は仕合せだった。いや幸せだった。もう十分だ。ありがとう。僕はリク君の身代わりになります。僕の命でも何かの役に立つんだ。あの晩みんなで食べた魚のソーセージの鍋はどんな銀座の高級鍋より秀逸だった。真央、かんちゃん、にんちゃん、パオちゃん、ありがとう。さようなら」
かんちゃん「それって」
真央「いやー」
にんちゃん「大井ふ頭に向かいましょう」
〇電車の中で揺られる真央。唇をかみしめている。
(M)拝啓 太宰治様 どうしてあなたはそうなんですか?あなたの命は大切な命。せっかく仲間ができたじゃない。せっかくこれからあなたの幸せが訪れるようになってきてるのに。これから未来がやってくるのに。
〇大井ふ頭に警察官が複数、自衛隊員もいる。真央の姉由紀がいる。そこに太宰が現れる。
警察官「そこの着物の君、勝手に入って来ちゃ困る」
太宰「……」
警察官「君、そっちは倉庫だぞ。爆発物があるの分かるだろ」
太宰「……」
警察官「おい、倉庫内に入る気か?」
太宰「僕が入れば子供は出てこれるだろう」
警察官「出てこれるだろうが。誰なんだ君は、死ぬぞ」
太宰「死ぬ?ふっ。僕はもうすでに3回死んでいる」
警察官「何言ってるんだ。止まれ」
太宰倉庫の中に入る。真央、かんちゃん、にんちゃん、パオちゃんがくる。
真央「ああ、由紀姉ちゃん」
由紀「真央」
由紀は半分泣いている。
由紀「真央、リクが。リクが」
真央「大丈夫。リクくんは絶対助ける」
真央「(警察官に)すいません。今ここに着物を着た男性がやって来ませんでしたか?」
警察官「ああ、来るなりためらいなく倉庫の中に入っていった。彼は水谷リク君の父親なのか」
真央「いえ、そうではないのですが。」
倉庫内から水谷リク君が出てくる。
由紀「ああ、リク」
警察官「水谷リク君身柄確保。今着物を着た30代くらいの男性が中に入った様子。引き続き爆発処理班、自衛隊、不審物を捜すように。ものがどこにあるのか分からない。人手が足りない」
かんちゃん「溝永さんどうするつもり?」
にんちゃん「駄目だよ溝永さん中に入っちゃ」
パオちゃん「溝永さん」
警察官「君、おい、君」
由紀「真央、何してんの」
真央倉庫に入る。
倉庫内 太宰のところに真央がやってくる。
太宰「真央」
真央「……」
太宰「何で入ってくるんだ」
真央「……」
太宰「君は入っちゃいけない。僕が死ぬだけで、一人の人間が助かるんだから。それでいいだろ」
真央「太宰治さん。あなたを精神保健法32条で保護します」
倉庫の外 自衛隊員、警察官、かんちゃん、にんちゃん、パオちゃん、由紀、水谷リクがいる。
かんちゃん「マスコミを味方にするんだ。自衛隊応援出動の声を増やすんだ。SNSに拡散しろ」
パオちゃん「おう、俺の身内のフォロワー数十万人のアイドルも味方になってくれている」
〇SNS上
―――太宰治が身代わりに。
―――どういうこと?
―――そんなことありえる?
―――爆弾処理班じゃだめなの?
自衛隊が新たにやってくる。
自衛隊員A「駄目だ。救出するにも爆発物の場所もセンサーも特定できなかった。分かっているのは今二人のいる倉庫内にセンサーがあること。爆発物は数時間後にもう爆発する様子。今中にいるものの最低一人は死ぬ」
自衛隊B「どうすれば」
自衛隊A「AIです。このAI人体探知機をドローンに乗せて倉庫内に入れ、センサーを一時的に錯乱させます。その間二人に逃げてもらいます」
自衛隊B「センサーがAIを人間と認識しなかったら」
自衛隊A「爆発します」
作品名:太宰治令和にやってくる 作家名:松橋健一



