太宰治令和にやってくる
真央「えっ、姉ちゃん何それ」
由紀「リクはあなたにとって甥っ子にもなるでしょ。私どうしたらいいか」
真央「どうしたらって……とにかく待つことよ。警察に任せて。きっと無事よ」
由紀「うん。そうよね。私このままだとノイローゼになる」
真央「由紀姉ちゃん。いい?落ち着いてよく聞いて。気をしっかり持つこと。ねっ。リク君は無事よ。きっと警察が見つけて、戻ってくるから。大丈夫」
由紀「そうよね」
真央「うん。そう。信じるしかない」
由紀「真央。ありがとう」
真央「うん、じゃあね」
真央電話を切る。
太宰「電話かね。そのかまぼこの板みたいな薄っぺらいのは」
真央「そう。太宰さん。甥っ子が大変なの。行方不明で。まあ、あなたに言ってもしょうがないか。それと、これからはここで寝て。私の家で」
太宰「君は僕と寝るのかい。僕と寝るのは売春婦くらいで」
真央「そういう寝るじゃないの。ここに住むってこと」
太宰「それにしても僕と一緒でいいのかね?」
真央「しょうがないでしょ」
太宰「僕は人間にあらず」
真央「太宰さんあなたの病気はあなたの時代で言う精神分裂病。今の時代で言う統合失調症。あなたの病気は治る病気なのよ」
太宰「治る?君も僕を精神病扱いするのか?」
真央「とにかく、ここの時代の新しい薬を服薬すること。それと薬の効果が現れて、症状が良くなったら、作業療法も進めてみる」
〇診察室。太宰の主治医と真央がいる。
主治医「驚いた。新薬を飲んで一週間でこんなに症状が良くなるなんて、薬に頼らず生きてきた。強い精神とやらがあるのだろう。さっそく今日からデイケアに行ってくれ」
〇デイケア共有スペース 真央とデイケアの利用者
真央「というわけで今日からここのメンバーになる太宰治さんです。信じないでしょうけど」
メンバーA「信じます」
メンバーB「私も信じます」
真央「みんな子供のようにピュアな心ね。よかった。太宰さん自己紹介できる。みんなの前で自己紹介してみて」
太宰「太宰治です。先日自殺をしたら未遂に終わった」
真央慌てる。
真央「太宰さん自己紹介で自殺とか言わない」
太宰「みんな僕の陰りを知ったら僕が恐ろしくて、みんな僕から離れていくだろう。私は尊い罪のない人間を汚したくない」
真央また慌てる。
真央「太宰さん。くらい。くらい。自己紹介にしては暗すぎますよ。みんなも暗い気持ちになるじゃないですか。なあみんな。ちょっとみんなの意見も聞いてみようか。かんちゃん。どう?」
かんちゃん「続けて。太宰さんになんか言わせて」
真央「えっ、じゃあ太宰さん。これが最後のしめ。何か一言」
太宰「生まれてすいません」
かんちゃん「本物だ」
にんちゃん「カッコいい」
パオちゃん「太宰さんが言うと違って聞こえますねえ」
真央「みんな感心しない。もう大丈夫かなあ」
真央手を叩きながら、
真央「ではみんなプログラム始まるから持ち場に戻って」
一同「はーい」
真央「太宰さんはまだプログラム早いから私と一緒に調理手伝って」
太宰「調理?男の僕が料理するのかね?」
真央「そう、このエプロンつけて」
太宰「エプロン?君は僕にこのエプロンをつけろというのか?」
真央「エプロンしないと不衛生でしょ」
太宰「君は僕に恥をかかせるつもりか?」
真央「いいから」
太宰「不愉快だ。帰る」
真央「帰るってどこに?」
太宰「どこって」
真央「どうするるもり」
太宰「どうするって……そうだ。死ねばいいんだ」
真央「ああ、分かった。分かった。じゃあ調理は見てるだけでいいから。エプロンもつけなくていい」
太宰「見てるだけなら」
真央「ええ、今日はナシゴレンか。ここのデイケアは昼食がいつも手作りなのよ。職員とメンバーで食事を作る」
太宰「君さっきはすまなかった。エプロン姿が色気を増してなかなかいいよ。艶っぽいな」
真央「太宰さん。この時代はコンプライアンス的にセクハラ発言とかうるさいから」
太宰「コンプライアンス?セクハラ?」
真央「ああ、そうなるよな。こんな状況初めてですけど」
〇太宰ナシゴレンを食べる。
太宰「これがナシゴレン。ご飯の上に目玉焼きがのってる。白米じゃないが玄米ではない。戦争中にしては贅沢だが、ほとんど女中が食べるものだよ。これは」
真央「はい、はい」
〇真央食器を片付ける。
真央「午後からはピアカウンセリング」
太宰「ピアカウンセリング?」
真央「ああ、ええとピアカウンセリングっていうのは、我々カウンセラーが患者に対してカウンセリングをするのではなくて、同じ患者同士、対等な関係でお互い助言しあうカウンセリング。太宰さんとりあえず参加してみてね」
〇相談室B 午後のピアカウンセリング
真央「はい、ピアカウンセリングの進行をさせていただく溝永です。初めての方もいるのでまず最初は自己紹介をしてから始めさせていただきます」
かんちゃん「太宰さんそっちの下手の方の椅子へ」
にんちゃん「かんちゃん、下手とかいちいち業界用語使うなって」
真央「はい、まずどうでもいい、かんちゃん、にんちゃん、パオちゃんから」
「僕は映画監督の野中風太。通称かんちゃん。溝永さん、今のどうでもいいかんちゃんはオンリーワン恫喝罪で東京地検に送検」
にんちゃん「何言ってるんだ。映画監督じゃなくてユーチューバーが動画編集してショートムービー作ってるだけの自称映画監督だろ。しかも視聴回数12回とか。でも溝永さん。にんちゃんはいいが僕も名前を羅列されるのは心外だなあ。この世界に知れ渡る忍者の高橋聡一通称にんちゃん」
にんちゃん素早くステップする。さまになってない。
パオちゃん「忍者の高橋さん。お前こそ忍者ごっこやってる30代後半の残念なニートだろ。この間日本刀主治医に没収されて。それより僕の影が薄くなっているのはいただけないなあ。天野拓人通用ぱおちゃん。パイオニアのパオちゃん」
かんちゃん「お前こそ売れてないアイドルをSNSに載せて有名になったら、僕前からこのアイドル目つけてましたみたいな自己満足やろうのオタクだろ。しかもお前もニートだろう」
かんちゃん「ここにいるやつみんなニートじゃん」
真央「あー、相変わらずうるせえな。かんちゃん、にんちゃん、ぱおちゃん。なんて状況だ。あと自己紹介は」
メンバーA「僕今日体調悪いんで」
メンバーB「私も」
真央「三人が元気すぎてみんな生気吸い取られてるのかなあ。じゃあ、太宰さん三人だけでも覚えて。映画監督のかんちゃん。忍者のにんちゃん。パイオニアのパオちゃん」
三人「宜しく」
真央「太宰さん自己紹介」
太宰「僕は世間の荒波の中で生きていけない、およそ生命力のない、つまらない人間です」
真央「だからそういうくらい紹介やめてって」
太宰「そうか、やはり僕は生きている価値はないと」
真央「そうは言っていない。一体何なのこの状況。そうだ。作家さんなんだから、映画監督もどきのかんちゃんと通じ合うかも」
太宰「映画?活動写真のことか?君本は読むのかね?」
かんちゃん「読書か。とりあえず何か読んでみようと思ってニーチェの『ツァウトゥウストラはかく語りき』読んで、途中で挫折した」
にんちゃん「そういう本から始めるなよ」。
作品名:太宰治令和にやってくる 作家名:松橋健一



