太宰治令和にやってくる
久末「うちのデイケアやグループホームの事業拡大のチャンスだ。まず区のケースワーカーに相談して」
真央「ええ、私がですか?」
久末「そうだもちろん。それと彼が自殺未遂をしたら精神保健法32条適用で保護入院となる。自傷他害つまり自らを傷つける。または他人を傷つける恐れのあるものは32条で保護入院となってしまう」
真央「ああ、32条ですね。自傷他害で保護入院」
久末「そうしたら、太宰君の病気が治っても病院の手柄になってしまう。くれぐれも内密に彼を守り32条適用にならないように彼を支援してくれ。ビジネス、ビジネス」
部屋からリビングに太宰がリビングに現れる。
太宰「さっきから何話しているんだ?」
久末「おう太宰君」
太宰「君の背広は滑稽だな。キザというよりは阿呆だよ」
久末「君は時代を超えて未来にやってきた」
太宰「……そうなのか。僕の人生の最後は喜劇に落ち着くんだな。奈落の底は喜劇も悲劇も一色単。滑稽だな。じゃあ、俺も阿呆の仲間入りということだ」
久末「事実を受け入れてるんだな」
太宰「悔しいのは、こんな天変地異が起きても何も驚くことなく、無味乾燥した自分の心に対して、苛立ちと情けなさを感じるだけだ」
久末「私はタチバナグループほほえみクリニックの理事長久末だ。君の味方だ。男と女二人じゃ不安だろ」
真央「すでに不安です」
久末「今晩は私と太宰さんと溝永君の家に泊まろう。大丈夫私は少年のように純粋無垢な心を持っている。信じていい。安全、安心、信頼」
太宰「……滑稽だな」
〇区役所精神保健福祉課
区役所の職員「27番の方どうぞ」
真央「あのー、溝永真央というものです」
職員「どうされました」
真央「昨日玉川上水を歩いていたらですね。へへっ、何ていうか川から大きな太宰治がドンブラコ。ドンブラッコって。ははっ。いやー何ですか、タイムトラベルっていうんですかね?今太宰治さんが家にいるんです」
職員「分かりました。少々お待ちください」
真央「えっ?分かったの?」
職員「お待たせしました。お手帳はお持ちですか?」
真央「手帳?何の手帳?」
職員「まだお作りになってない」
真央「手帳ひょっとして」
職員「お手帳の申請をお勧めします。それにはまず主治医意見書と初診の診断書が必要になってきます。初診はまだですよね。区で紹介したクリニックで初診を受けてですね。あと協力的な身内の方とかは、お母様とか」
真央「私患者?」
職員「ええ、病識がない?心配ないですよ。心の風邪です。大丈夫です。クリニックはみんないい人ばかりですから。全然怖くないですよ。薬を飲めば気持ちも楽になります」
真央「間に合ってまーす」
(M)そりゃあそうだよな。誰も信じないよな。とりあえず、遅れたけど太宰さん連れてデイケアに出勤するか。
〇デイケア 太宰と事務所の入り口前にいる。
真央「太宰さんあなたはまず入らずそこに待ってて。外で待ってて」
職員菊池亜紀「おはようございます!溝永さん。遅かったですね」
真央「あのー太宰さんが……」
職員A「ダザイ?あっそういえば昨日桜桃忌でしたよね?太宰さんがどうかしました。なんか桜桃忌で影響されちゃったとか」
真央「あー何でもない」
職員A「ねえ、ねえ、ド天然の溝永さんが何を言おうとしたの?」
真央「だから何でもないって。この話終わり。またいずれ話すよ」
〇共有スペース かんちゃん、にんちゃん、パオちゃんがいる。
かんちゃん「やあ、にんちゃん最近撮影が忙しくて、良かったら僕の映画に出ない?アクションもので」
にんちゃん「アクションは美しくなくてはいけない。君のは何と言うか。ださい。誰も見てない」
かんちゃん「何を言う私の作品にケチをつけるのか。君の忍者ごっこも幼稚園レベル」
にんちゃん「幼稚園だと」
ぱおちゃん「にんちゃん、かんちゃんやめなよ。団栗の背比べみたいになってる」
真央が共有スペースに現れる。
真央「ちょっとそこのかんちゃん、にんちゃん、パオちゃん」
かんちゃん「どうしたの。職員たるものが、僕たちメンバーの前でそんな憂鬱な顔を見せちゃダメじゃん。番長らしくないですよ」
真央「番長言うな」
かんちゃん「それより、かんちゃん、にんちゃん、パオちゃんと名前を羅列するのはいただけないなあ」
にんちゃん「そうですよ。日本の美に反してます」
パオちゃん「ましてや僕たち大物の前で」
真央「ああ、ごめん。でね。あのね……昨日ね……ええ、いやもちろん君たちが病を患っているから馬鹿にしてるんじゃないよ。本当の話でね。あのー昨日玉川上水を歩いていたらね」
かんちゃん「うん、玉川上水」
真央「玉川上水からタイムトラベルした太宰治が流れてきて。あー私、何言ってるんだろう。こんなの誰も信じるわけない」
かんちゃん、スマホで真央の動画を撮る。
かんちゃん「溝永さん素晴らしい。いい瞬間です」
真央「えっ?何?動画撮るなって。やっぱ引いた。だよね。引くよね」
かんちゃん「僕は信じます」
にんちゃん「僕も」
パオちゃん「僕も」
真央「えっ?信じるの?」
かんちゃん「信じますよ。俺達ピュアなんで。こう見えても誠の敏感なんで」
真央「今面談室Bに隠れているの。連れてくるわね」
かんちゃん太宰をスマホで撮る。
かんちゃん「おう、やばいですよ。やばいですよ。本物。リアル太宰治。SNSにアップしたい」
真央「駄目」
にんちゃん「確かにハンサムだ。奥ゆかしい」
パオちゃん「うわー、こんなハンサムならアイドルにももてるんだろうなあ。いいなあ」
真央「明日はピアカウンセリングだから太宰さんにも参加してもらうわね。みんなも参加してくれる?どうせあなたたち暇なんでしょ?」
かんちゃん「番長暇とは何ですか!仮にも私は映画監督ですよ。ここの職員みんなコンプライアンスに忠実なのに番長だけがコンプライアンス全く無視で。まあ太宰さんが来るからスケジュールバラシにしてピアカウンセリングに駆けつけますけど」
〇事務所。理事長久末と真央。
久末「溝永君。しばらく太宰君を君の家でかくまってくれ。お金のことで足りないものがあったら出す。彼の印税が入ったら、収入が総計億を超える」
真央「はあ」
久末「しかし彼の作品を有害図書という人もいる。処罰の対象になるかもしれん。くれぐれも表ざたにしないよう、ひっそり彼をかくまってくれ」
真央「えー。まあ、ああ、はいわかりました」
久末「じゃあ、それで。あっ、急がなきゃ。成増のカフェ&アクセサリ―に。ビジネス、ビジネス」
(M)これから太宰さんと同棲。ありえない。こんな状況初めてですけど
〇真央の家。携帯が鳴る。姉水谷由紀からの電話。
姉の由紀「もしもし真央」
真央「ああ、由紀姉ちゃん。どうかした?」
由紀「ちょっと大変なのよ。真央」
真央「大変て私も大変……」
由紀「リクが、リクが……」
真央「えっリク君がどうかした?」
由紀「行方不明なのよ。一昨日から。昨日は誰かのうちに泊まって帰って来ないのかもとも思ったけど、学校に連絡しても、学校にも来てないし、どの友達とも泊ったという形跡はない。学校からそう聞いた後、昨日から警察に捜索願出してるけどまだ手掛かりか見つからないの」
作品名:太宰治令和にやってくる 作家名:松橋健一



