過去と未来の人類
「ええ、そうです。彼は、アンドロイドなんです。それも、私の脳を移植したアンドロイドです。ただ、移植したといっても、私の中に脳がないわけではありません。私の脳をコピーする形で作ったという、いわゆる、人口知能なんですよ」
というのだ。
「アンドロイドというと、ロボットという感じですか?」
と聞くと、
「いいえ、彼らにも、感情もあれば、感覚もあります。何よりも、彼らは自分のことを人間だと思っています。実際に、アンドロイドという人間だといってもいいでしょう」
「じゃあ、彼らには寿命がない?」
というと、
「いえいえ、形あるものは必ず滅びる。盛者必衰であったり、諸行無常だという言葉が昔からあるじゃないですか。もっとも、あの物語を描いたのは、もう一種類の人類なんですけどね」
という。
「えっ?」
「昔の人たちほど、もう一つの人種とうまくやっていたんですよ。それだけ、律儀で正直だったということでしょうね?」
「それはどっちの人種が?」
「それは、今の人間と呼ばれる人たちですよ。生きることに必死になっていた時代です。ですが、今の時代の人間は、生きることに必死になるというよりも、何か別のものに必死になって、殺し合いをしているように見えるんですよ。つまり、生きる目標が分からなくなっているようなですね。だから、地球滅亡という発想がないわけで、気が付けば、取り返しがつかなくなってきた。だから、もう一種類の人種も、背に腹が変えられないということになってきたというわけです。もう一種類の人種というのは、まったく昔から考えかたも何もかもぶれていませんからね」
というのだ。
「まるでロボットのようですね」
というので、
「そうなんだよ。もう一種類の人種を今の人種がその存在を知ることで。今の人類が、ロボット開発であったり、タイムマシン開発という、もう一種類の人種とすれば、昔からあるものをやっと考えられるようになったということさ」
という。
「もう一種類の人種って、本当に人間なんですか?」
と聞くと、
「いいえ、人間ではありません。最初からいっているじゃないですか。彼らは肉体的には弱いから、頭脳が発達したと。つまりは、自分たちの存在を延命させるということで、身体をサイボーグ化したというわけだ」
というのであった。
それこそ、
「特撮の発想」
ということで、
「ここ半世紀くらいの間にいわれていることとして、近しい人間が、悪の秘密結社の作った似たものにすり替わっているという発想が出てきたのを知っているかい?」
と言われ、大学で心理学などを学んでいたことで、心理学としてはポピュラーである、
「それって、カプグラ症候群と言われるものでは?」
ということをいうと、
「そうそう、そういうことさ、そんなことがやっと最近言われるようになったというのは、もう一つの人種の存在を今の人間がやっとわかるようになってきたということで、そこには、もう一つの人種の考えが含まれているということは当たり前というものだね」
ということであった。
さらに彼は続ける。
「もう一つの人種というのは、実はこちらの人間の、数百年先を進んでいる世界にいるんだ。だから、存在を知られまいとして、タイムトラベルを禁止していたということさ。それは、向こうの世界でも同じことで、ただ、最近は、こっちの人類が地球環境を壊しているので、こちらの人間が壊してしまうと、彼らは数百年の歩んできた歴史がすべて吹っ飛ぶということになり、その問題が大きかったということなんだよ」
というのだ。
さらに、
「人間や動物には、寿命という概念があるが、あちらにはない。確かに、永遠に生きることはできないが、壊れる時に、人間のように、死んだという意識がないので、壊れれば、すぐに、他の肉体を作って、そこに移植するということさ。昔、特撮の中で、他の星で、科学力は発展していて、人が死なないということではあったが、肉体の消耗には勝てないということで、若い肉体を求めて、地球侵略に来たという話があったが、あの発想は、まさに、もう一種類の人類の発想そのものなんだよ。しかも、その発想の中に、他の星という発想が、未来の地球という発想と絡んでいることで、さらに、もう一種類の人類の影響を感じさせるというものだからね。昔から、時々こっちの人間に、向こうの人間がサインを送っていたということになるんだろうね」
というのであった。
「それは、木を隠すには森の中ということでしょうか?」
というと、
「そうそう、まさにその通り。君もだんだん分かってきたね」
と言われて、内心喜びはしたが、
「手放しに喜べない」
という感覚があった。
というのは、
「俺は、本当にここにいていいのだろうか?」
ということを考えてからだ。
もっとも、自分の意識としては、
「この世界で、これから暮らしていくという意識はない」
ということであった。
それを思えば、
「死」
という言葉が押し寄せてきた。
「この世界ともう一つの人類を考えると、不思議と死というものが怖いとは思わない。本当に怖いというのは、自分が生きてきた歴史が消滅することだと思う」
ということであった。
そういえば、
「親子心中」
というのが、その後にあったが、その子供の方の顔を見ると、そこにいるのが自分だということを正信は気づいた。
そして、その横にいるのは、正敏であり、
「こんな平穏な死に顔は初めて見るな」
といっている刑事がいた。
まさにうらやましそうな表情で、それを見た時、
「これが俺の存在意義だったのだろうか?」
と思いながら、死んでいった自分というものを感じていた。
( 完 )
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