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海野ごはん
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第四章 

1 信二の生き方

信二は帰国して、真面目にネクタイを締める男になった。
始業時間、稟議書、上司の咳払い。全部きちんと守った。
守りすぎるくらいに。

それでも、ふとした瞬間に思い出す。
バララットの夕日。
あの、世界が一瞬だけ金色に溶ける時間。
忘れられないというより、身体の奥に沈殿してしまった感じだった。

他の二人とは、自然と距離ができた。
理由は簡単で、でも誰にも説明しなかった。
子供が生まれたからだ。

夜泣きとミルクと、細切れの睡眠。
幸せだった。確かに幸せだった。
でもその分、夢は静かに、肩身を狭くした。

そんなある日、金採掘の夢がまた心に浮上してきた。
「週末だけだよ」
そう自分に言い聞かせて、信二は川へ行った。

家族には
「ちょっと散歩」
同僚には
「健康のため」
本当は、自分自身、何かを忘れる為だった。

川の水は冷たく、現実的で、容赦なかった。
それでも掘った。
黙々と、無言で、誰にも見られずに。

そして――
親指大の金塊を掘り当てた。

手が震えた。
笑った。
叫びたかったけど、声は出なかった。

持ち帰って、家で量った。
間違いない、本物だ。
夢が、現実の重さを持ってそこにあった。

でもその瞬間、信二は気づいてしまった。

この金塊を
一番最初に見せたい相手が
もう、誰もいないことに。

家族には言えなかった。
心配させたくなかった。
他の二人には連絡しなかった。
今さら、どんな顔をすればいいのかわからなかった。

金塊は、押し入れの奥にしまわれた。
子供の成長アルバムの、さらに奥。

その夜、子供が初めて歩き始めた。
信二は思わず泣いた。
理由は自分でもわからなかった。

その隣で、金塊は静かに光っていた。
誰にも祝われず、
誰にも奪われず、
ただそこにあるだけで。

信二は鼻をすすりながら、苦笑いした。

「……重いな。夢って」

泣いているのか、笑っているのか、
もう自分でも区別がつかなかった。

時が経ち

信二の息子が大学へ行くことになった。
合格通知は、妙に軽い紙だった。
なのに、手に取った瞬間、胸の奥がずしりと沈んだ。

家には預金がなかった。
正確に言えば「なかったことにしてきた」。
生活は回っていた。笑顔もあった。
でも、数字だけがどうにもならなかった。

その夜、信二は押し入れの奥から、あの箱を出した。
ずっと見ないふりをしてきた重さ。
川の冷たさと、バララットの夕日が同時に蘇る。

――掘った金を、お金に変える時が来た。

妻には、すべてを話した。
川へ行っていたことも、金塊のことも、黙っていた理由も。

妻はしばらく無言だった。
怒鳴りもしなかった。
泣きもしなかった。

ただ、金塊を見て一言だけ言った。

「……あんた、バカね」

それは叱責でも、呆れでもなく、
長年一緒に生きてきた人間だけが出せる、柔らかい言葉だった。

作品名:GOLD 作家名:海野ごはん