GOLD
丘を越えた先は、驚くほど静かだった。
風の音が変わる。
土の色も、わずかに暗い。
少年は地面にしゃがみ込み、手で土をすくった。
「マイ・グランドファーザー」
そして、胸を叩く。
「ディス・ランド」
アボリジニ――。
この土地の、本当の持ち主。
山ちゃんは、思わずシャベルを下ろした。
「……掘っていい?」
少年は少し考え、それから、小さく頷いた。
⸻
金属探知機が、低く、確かな音を立てた。
ピ―――。
心臓が跳ねる。
掘る。
慎重に、慎重に。
赤土の中から、鈍い光。
山ちゃんの手が震える。
――重い。
――冷たい。
――本物だ。
金塊だった。
疑いようのない、自然金。
「……あ」
声にならなかった。
少年は、静かにそれを見つめている。
喜ばない。
驚かない。
ただ、知っていた、という顔だった。
⸻
山ちゃんは金塊を握りしめた。
頭の中に、数字が浮かぶ。
これを売れば。
人生が変わる。
チャンネルを更新すれば。
再生数は跳ねる。
でも、少年は言った。
「ゴールド、ノット・オウン」
「……え?」
「ラン。ムーブ。ステイ・ノー」
金を持って逃げろってか?
山ちゃんは、金塊を見つめ、ゆっくりと少年に差し出した。
「……ここは君の祖先の土地だ」
少年は、首を振った。
「ユー・ファインド」
「でも……」
少年は、山ちゃんの胸を指した。
「ユー・チェンジ」と言って笑った
⸻
日が沈む。
金塊が、最後の光を反射する。
山ちゃんは、しゃがみ込み、少年の手を取った。
そして、金塊を、そっと置いた。
「……これは、君の未来に使って」
少年は、しばらく動かなかった。
やがて、深く、深く頷いた。
別れ際、少年は小さな石をくれた。
金ではない。
ただの、丸い石。
「リメンバー」
山ちゃんは、石を握りしめた。
⸻
日本に戻った山ちゃんは、動画を一本も上げなかった。
代わりに、河原で、静かに掘り続けている。
あの日の金塊は、ニュースにも、記録にも残らない。
だが時々、彼は思い出す。
赤い大地と、黒い瞳。
そして、与えた重み。
「……掘ったな 見つけたんだよな金塊。。。」
誰もいない川原で、山ちゃんは小さく笑った。
手の中の石は、今日も、金より重かった。



