GOLD
3 金の形
翌日、信二は金を売るため街へ出た。
箱を抱えたその背中は、少しだけ丸まっていた。
駅前で、ばったり山ちゃんに出会った。
昔より痩せて、でも笑い方だけは変わっていなかった。
立ち話のはずが、喫茶店に入った。
コーヒーは薄く、時間だけが濃かった。
そこで聞かされた。
リーダーの達夫が、死にかけていること。
病気と借金が重なり、身動きが取れないこと。
三人で夢を語ったあの男が、
今は赤貧の中で、天井を見つめていること。
信二の頭に、バララットの風景が一気に流れ込んだ。
土まみれの手。
意味のない冗談。
「絶対当てるぞ」と笑い合った夜。
あの時、確かに三人は同じ夢を見ていた。
信二は達夫と山ちゃんの連絡先を聞き、
達夫は金を売らずにそのまま自宅へ戻った。
家に帰ると、息子が声をかけてきた。
珍しく、真剣な顔だった。
信二は、全部話した。
山ちゃんのことも、達夫のことも、
自分が何に迷っているのかも。
息子は黙って聞いていた。
そして、少し考えてから言った。
「その金さ」
一呼吸おいて、
「友だちに使ってあげてよ」
信二は言葉を失った。
息子は続けた。
「大学はさ、なんとかなるよ。
奨学金もあるし、バイトもできるし。
でも――」
少し照れたように笑って、
「父さんの“仲間”は、今しか助けられないんでしょ」
その瞬間、信二は泣いた。
子供の前で、情けないくらい泣いた。
翌週、金塊は売られた。
思ったより高い値段だったが
夢は、換金すると妙にあっさりしていた。
信二は、山ちゃんと一緒に達夫の元へ行った。
病室で、達夫はかすれた声で笑った。
「……お前、遅いんだよ」
金の話をすると、達夫は怒った。
本気で怒った。
でも最後には、泣いた。
子供みたいに、声を上げて泣いた。
金は治療費と借金に使われ、
残りで三人は小さな約束をした。
「もう一回だけ、川へ行こう」
何も掘れなくてもいい。
結果なんていらない。
ただ、三人で並んで立つために。
数か月後。
三人は川にいた。
年を取って、腰は痛く、息は切れた。
達夫は回復してないが河岸から笑って見ていた
でも、夕日はあの日と同じ色だった。
誰も金は掘れなかった。
代わりに、腹がよじれるほど笑った。
信二は思った。
あの金塊は、
人生で一番正しい使い方をされた、と。
帰り道、息子からメッセージが来た。
「大学、決まったよ。
ちゃんと自分で掴んだから、心配すんな」
信二は空を見上げて、笑った。
涙が少し出た。
バララットの夕日は、もう追いかけなくていい。
夢は掘り当てるものじゃない。
誰かと分け合った時、初めて光る。
そう思いながら、
信二は拍手の代わりに、
そっと手を叩いた。
よくやったな、俺たち。



