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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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誰が彼女を生かしたか

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7話「いただきます」





私は目が覚めるとすぐに体を起こす。すると突然目の前にぽっかり現れた、小さなガスコンロ台とシンク。私から見て部屋の左奥に見える、外との赤いドアの手前。

〝水道管なんか引いた覚えないけど…〟

それを聞きたかったのに、ガスコンロの前に立つ七星さんはこう言ってしまった。

「おはよう春子。食事をしよう」

「食事…?」

そういえば私は、ここに閉じ込められてから食事をしていない。そうだ!していない!

いくらなんでもそれは変だ。どうして気づかなかったんだろう。そんなに何年も…

「君の好きなミートボールと焼きそばだ。コーンスープもあるよ。焼きそばにマヨネーズは今日はかける?」

「え」

私の好きな食べ物しか言われなかった。それは有難いけど、流石に聞かせて欲しい。

「どうして、そんなに私に詳しいんですか?」

七星さんは、ぶくぶく湧いた鍋からミートボールの袋を取り出していた。レトルトなのね。好きだけど。

同時に、隣のコンロで焼き目でも付けているらしい焼きそばが、ソースの焦げた香ばしい香りを立てる。七星さんは焼きそばを盛り付けながら喋った。

「僕は君のことなら、なーんでも知ってる。だから安心してくれていい。君が今、〝怖い〟としか思っていないことも」

何も言えなかった。そこまで内心を見透かされたら、人は改めて何かを言うなんて出来ない。

他の誰も青いドアからは出てこなかったし、七星さんも食事はしなかった。

「食べないんですか?」と聞くと、「君の番だよ」とだけ言われた。

〝私の番ってなんだろうなぁ。いちいち聞いても、多過ぎて分からなくなりそうだし、いいや…〟

焼きそばは、美味しい。小さい頃、焼きそばばかり食べたがって怒られた。ミートボールも、そればかりねだっていたら、怒られた。うーん。そりゃ、栄養が偏るもんね。ごめん。お母さん。

焼きそばの盛られた大きな平皿は、青い。コーンスープは黄色く分厚いマグカップだ。スープの熱さが直に手に伝わる。ミートボールはほかほか湯気を立てながら、透明で花模様の施されたガラス容器に入れられていた。

もそもそ焼きそばの麺を口に運び、合間にミートボールを食べる。

〝そういえば、野菜はもやしも入ってないけど、もしかして野菜嫌いなのも知れてるのかしら…〟

私がそう考えていた時、七星さんが突然あははと笑った。何を見たんだろうと窓を見ると、カーテンは元通り閉まっている。七星さんに目を戻す。

「野菜は君には出さない」

私はそろそろ、「怖いです!」と叫びたかった。



その後数時間して、七星さんはなぜか勝手にカップ焼きそばを食べていた。どこから出したのか分からないけど、多分布団から左へ振り返ると見える、冷蔵庫の上だろう。でも、冷蔵庫の中にはミートボールと焼きそばがあるのに。

〝そういえば、さっき見た時、肉じゃがもあったかも?コカコーラとお豆腐も…〟

「あの、焼きそば、食べないんですか?」

七星さんは床に胡座をかいて、カップ焼きそばを抱えて一生懸命ほうばっている。私に声を掛けられ振り向いたけど、少しうるさそう。

「別に。あれは君のだよ」

「はあ。食べてもいいですけど…」

「君じゃなきゃ、料理なんかしない」

初めてつっけんどんな七星さんを見た。今までは、ただ穏やかで丁寧なだけだった。実はちょっと、そんな彼を警戒していたのだ。

〝慇懃無礼な態度しか取れない怪しい人、って訳でもないみたい。食事中は意外と気を抜いてしまうのね。そりゃそうか〟

〝それにしても、他の皆さんはよく寝るなあ…〟

食事が終わった七星さんは、青いドアの向こうへ引き返して行った。でもそれっきり、2日間も誰も現れなかった。



〝退屈だな…一人で生きていくって…〟

そんな風に考えながら、たまにカーテンを開けてみたりしたけど、やっぱり誰も居なかった。