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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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誰が彼女を生かしたか

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8話「私を呼ぶ人」





ここはお母さんの家だ。ただ、窓の外で誰かが呼んでいる。初めて私を呼んでいるのに、返事が出来ない。ここは、お母さんの家だから。


「春子ー!早くしなさい!来て!」

とんでもない怒鳴り声。あんなの誰も聴いた事なさそう。私を恨んで殺したがってるみたい。

急いでお母さんの元へ行こうとして走り出した時、思い出が停止した。

〝あれ?どうして?〟

立ち止まってしばらくしてから、何かが頬に当たる事に気付いた。

ぺち。ぺち。ぴと。ぴと。誰かが私の顔へ、軽く手を当てている。なんだろう。叩かれてる訳じゃないみたい。

不意にお母さんの家は描き消えて、七星さんが現れた。彼はとても心配そうにこちらを見ている。

「七星さん…?ごめんなさい、私考え事をしてて…」

「戻ったか。ごめんね、辛い思いをさせて」

私は、なんで謝られたのか、「戻った」とはなんだったのか、一つも分からなかった。わからない事が多過ぎる。

〝もう、聞く気になれないから…このままで…〟

でも、一つだけ聞いてみたい事はあった。彼は私の言葉を否定しないような気がしたから。本当の事を言うのが怖くても、否定されないなら良い。

表で誰かが呼んでいる。でも。

「七星さん。私…ずっとここに居て、いいんですよね…?」

一瞬間のち、私は変な事を聞いてしまったと分かった。

〝どうしてそんな事を言ったの、私。彼らはここから私を助けたいって言ってたのに…私だって、出たいと思っていたのに。どうしてこんなに…怖いの…?〟

七星さんの顔を見られなかった。きっと、悲しいと思う。私は閉じこもり続けたいって言ったんだもの。

勇気を出して見てみると、七星さんはなんと、泣いていた。でもそれは、滲んだ目尻をコートの裾で拭うだけ。すぐに気を取り直したのか、彼は微笑む。

眉間に寄った皺と、震える瞼、歪に持ち上げられた頬。彼はそうして、私に笑った。

「それしか君がこの世に耐えられないなら、どうかそうして欲しい。でも、まだ飽きるのは早いよ」

私は返事が出来なかった。もしかしたら彼は、私が飽きてしまって首をくくったところで、責めないのかもしれない。

その時、窓の外の騒ぎが私に聴こえるようになった。男性が大声で呼ぶ声がする。

「春子ー!春子ー!死なないでくれ!どうか死なないで!」

それは知らない人の声だ。なぜか私が死ぬのを止めている。確かに私は死にたいかもしれないけど。

〝理由を聞かなくちゃ!〟

恐る恐るではあるけど、思い切って窓に駆け寄り、カーテンを掛けたまま表へ叫ぶ。

「あの、大丈夫です!死んだりしません!」

どうして知らない人が現れたのか聞きたかったけど、相手は生死を心配してとても慌てている。だったらまずそこから。それから名前を聞かなくちゃ。

表からは、大きく息を吐いた音がした。ちょっと大きい。よっぽど心配だったのかも。彼はこう言った。

「それなら良かった。今晩俺は起きているからね。何かあったら言うんだよ」

また私は混乱した。親切そうで、一緒に住んでいるかのような言葉だ。あんな人、知らないのに!姿を見てさえいない!

〝でも、そこまで言われて、「知らないです」なんて言ったら、可哀想…どうしたらいいの!?〟

私は困って困って、七星さんを振り返る。その時、響子さんや奏君、名乗らなかった人も、ドアの前に並んで立っていた。

七星さんが床から立ち上がり、私まであと三歩の距離へ近寄る。たじろぎそうな私。

「答えは簡単なんだ。ここから君が出ればいい。そうすれば彼の事は解るんだよ。でも、疲れたならお眠り」


一体自分は何をすればいいのか。それだけを考え、泣きながら眠った。