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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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誰が彼女を生かしたか

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5話「謎」





七星さんが私に語る時、なぜか無言で響子さんも近寄ってきて、七星さんを少し押し退けた。私は丁度二人と向かい合った、真ん中前に居るみたいだ。

奏くんは、部屋に着いて早々、「眠いの」と言って寝てしまった。

とはいえ、「響子さん、どうしました?貴女もお話があるのですか?」とは聞きづらい、かも。かなり。

私が響子さんの様子を窺うのに必死になっている間に、七星さんはかなりはっきりと厳しい語調で喋り始めた。

「僕達は君の事を知っている。そして、君は僕達を知らないだろう。君の記憶で言えば、僕達と君は会ってないんだから」

七星さんはそう言った。私は、まだ謎袋の中から出られないみたい。彼の様子は真剣だ。

「でも、私達は貴女の気持ちを知っている」

響子さんがまたそう言う。でも、もう「どうしてですか?」とも聞きづらい。だって、ここまで理由を言わないんだもの。その上、「記憶の上では会ってない」なんて、変な前提を飲み込んでもらいたがってる。

この人達の言う事が信じられるかわからない。でも、信じられなきゃ、また同じ事になる。

寒い部屋。近い壁。狭い。そこで対峙する、敵同士の親子。

母さんが私を壁に向かって投げた。ただ黙って。驚いて、怖がって、痛かったから母さんに謝ればいいのかと顔を上げた。

そこに居たのは、ただ私を憎んでいるだけの女の人。

「春子。話は出来そう?」

突然聴こえてきた七星さんの声に正気に返ると、彼は私に微笑んでいる。昨日のように。

〝大丈夫、かも〟

「はい。お話できますよ」

「そっか。じゃあ、僕のことは後にして、響子の話をしよう。今は奏は寝ているからね」

響子さんは焦れてきたのか、七星さんを睨み続けている。そんなに仲が悪いのかな。一緒に居て大丈夫なのかしら。

「響子は、君を殺して、救いたいらしい」

「えっ?」

脳が理解を拒んだし、多分理解してはいけない気もした。なにそれ。普通死んだら救われないわ。

「君は悲惨な人生を送ってきた。そして、それは今もなんだ。ここに居る限り。誰とも会えない、言葉も交わせない。否定されないけど、許されもしない」

「え、ええ…」

〝どうしてそんなに、知ってるんだろう。でも、ここは安全なのに…〟

とはいえ分かる。「ここは安全だから居させてください」って言ったって、「一人きりで暮らすのは辛いよ」と言いたくなる人の気持ちも。

その時、七星さんはまたそれを見抜いた。

「君が何を言いたいのかは分かるよ。人は誰だって安全な場所に居たい…」

その先を話したそうだったのに、初めて七星さんは言葉を濁した。

〝君がこれをくれた〟

理由なく、私から彼へ渡されていた鍵。一体どうして。でも、彼は現にここへ入ってきて、私に嘘を言ってる訳でも、騙そうとしている訳でもなさそう…

その時響子さんはとんでもない事を言ってのけた。

「死んだ方がマシなのよ、こんなクソみたいな世界じゃね」

私が驚いて発言を止める間もなく、七星さんは響子さんの前へ首を回り込ませた。

「まあ、幸福ならそんな事は考えないさ。それに、春子が驚くから、変な言い方はやめてくれ」

「うるさいわね、アンタなんかに何が分かるの?機械人間の癖に」

そこで七星さんがどういう顔をしていたかはわからない。怒っていたかも。悲しんでいたかも。でも、響子さんはちょっと気まずそうに顔を背けた。そして、彼が私にまた向き直る。

「まあ、仲間内での評判はこうなんだよ、僕は」