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ヒトサシユビの森

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森の中で何度か方向を見失いながらも、江守は現場に戻った。
すっかり土まみれになった室町が江守に言った。
「江守、その靴に見覚えは?」
室町は掘りだされてシートの上に置かれた小さな靴を指し示した。
青や赤でデザインされた幼児用の運動靴が片方。
江守はその運動靴を食い入るように凝視した。
そして知らぬ間に湧きあがってくる感情を抑えて、室町に答えた。
「似ています。いぶきちゃんが履いていたものに」
その言葉を聞いた捜索班たちの胸中に、絶望の文字がちらついた。
運動靴はまだ色褪せておらず、形状も保たれていた。
埋められてからたいして日数が経っていないものと思われた。
江守は樹林へ駆けだし、木立の陰で涙を流した。
重い空気が漂うなか、穴掘り作業は続けられた。
署の応援が到着し、現場に規制線が張られた。
投光器が到着し稼働を始めた頃、新たな発見があった。
明らかに人骨と思われる骨が出土した。
そこからは早かった。
頭骨から趾骨まで、全ての骨が発見された。
投光器の灯りの下で、子どもの骨が人の形に並べられた。
鑑識官が言った。
「右手の人差し指の骨だけ、見当たりません」
そのタイミングで、天馬署長から室町に連絡が入った。
「現場から見つかった骨のようなもの。鑑定の結果が出た。人骨だった」
天馬はひと呼吸置いて、室町に告げた。
「残念だが、いぶきちゃんのDNAと一致した」
室町の手から、衛星携帯が滑り落ちた。
全身の力が抜けて、室町は地面にへたりこんだ。
「何か見つかったんですか」
規制線の外側から坂口が声をかけた。
坂口を見て、室町はゆっくり立ちあがった。
捜索班と行動を共にし、いぶきの捜索に協力してくれた坂口には事情を報せるべきと考えた。
「いぶきちゃんの骨だったの」
「え、骨が・・・。いぶきちゃんの・・・」
坂口は大仰に驚いて見せた。
そこへ江守がふらふらとした足取りで近寄ってきた。
涙目のまま、室町に訴えた。
「室町課長、私、かざねさんに何と言って詫びればいいのか・・・」
江守はその場に泣き崩れた。
室町は江守の肩に手を置いて
「江守、悪いのはいぶきちゃんをこんな目に遭わせた犯人よ」
室町の目にも涙が光った。
「犯人を捕まえましょう。それには江守、あなたの力が必要なの」

作品名:ヒトサシユビの森 作家名:椿じゅん