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ヒトサシユビの森

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森に分け入って、江守は道具に使えるものはないかと探し回った。
だが地面には、折れ曲がった細い枝しか落ちていない。
行きつ戻りつしながら、歩くこと十数分。
江守は森の中で、道に迷ってしまったような感覚に陥った。
その時である。
江守は木々の奥に建物らしきものを見つけた。
目を凝らしてみると、それは丸太小屋であった。
坂口が江守に追いついた。
江守が坂口に尋ねた。
「坂口さん、あれ、何かしら」
「あ、あれね・・・」
坂口は間を溜めて答えた。
「あれ、猟友会の物置小屋です」
「よく使ってらっしゃる?」
「いや、年に一、二回ってとこでしょうか」
「最近来たのは?」
「道の駅で忙しかったから1年以上来てません」
「いま、中に誰かいたりします?」
「いや、いないでしょう」
「中を見せてもらったりできます?」
「ええ、かまいませんよ。あ、カギが・・・」
坂口はポケットを探った。
小屋の鍵を持っていなかった。
「でも大丈夫です」
坂口は小屋に近づいて、釣り糸の警報装置を解除した、
小屋の裏手に回ると、真鍮のカギを一本持って現れた。
鍵穴にカギを差しこみ、扉を引く。
ぎぃ、と鈍い音を軋ませて扉が開いた。
万が一にでも、生きているいぶきが中に居ればという思いで、江守は小屋の中に入った。
暗くてほぼ何も見えなかった。
木の匂いと動物の匂いが混じった異臭が、江守の鼻をついた。
江守はペンライトを取りだした。
ライトが最初に照らしたのは、積みあがった鉄製の檻だった。
中には、何も、誰もいなかった。
坂口が梁に手を伸ばして、LEDランタンを二か所点けた。
光源がじわりと広がり、小屋の中がほぼ裸眼で見られるようになった。
大きな木製のテーブルとスツール。
壁には頑丈そうなロッカーと造りつけの棚。
ペンライトを胸にしまって、江守は小屋の中を観察した。
棚の上にはロープや工具類に混じって、ウルトラマンのフィギュアが置かれていた。
江守はそのフィギュアに違和感を覚えた。
なぜ子どものおもちゃが猟友会所有の小屋の中にあるのか、坂口に尋ねようと、坂口のほうを見た。
坂口は、金属製の箱に腰かけていた。
それは横倒しにした冷凍冷蔵庫ほどの大きさがあった。
江守はウルトラマンより、金属製の箱が気になった。
「坂口さん、その箱は?」
「あ、これ貯蔵庫っていうか、物入れです。天日干ししたクマの毛皮がしまってあります」
訊いた以上のことを坂口が答えたことに、江守は疑念を抱いた。
「その箱、中を見せてもらっても」
「いいですよ」
坂口は金属製の箱から離れた。
江守は、箱の蓋にある二か所のストッパーを外した。
坂口は江守に気づかれないよう、腰につけたサバイバルナイフに手をかけた。
江守が蓋を開けようと、蓋の縁に指をかける。
坂口はサバイバルナイフを鞘から抜いた。
江守が箱の蓋を持ちあげたとき、江守の肩で無線機が鳴った。
江守は開きかけた蓋を閉じ、無線機を取って応答した。
江守の表情に緊張が走った。
「すぐに戻ります」
江守は箱の中を見ることなく、小屋を後にした。
坂口はサバイバルナイフをそっと鞘に戻した。
作品名:ヒトサシユビの森 作家名:椿じゅん