ヒトサシユビの森
いぶきの捜索から、町の職員や一般市民のボランティアが外された。
石束警察署の有志と一定の技能を持つ消防署員からなる少数精鋭の捜索班が組織された。
吊り橋に関して町役場の土木部門が、その安全性について検分した。
橋を支えるワイヤーや敷板の大半は、老朽化しているが今すぐ破断や破損はないという結論だった。
しかし安全性を強化するため、長尺の合板が敷板の上に伏された。
さらに橋の上にロープが架線のように渡され、万一の転落の備えとされた。
時間と予算の制約などから、応急措置であるが他に方策がなかった。
それらの作業を、土木部門は夜を徹して成し遂げた。
翌朝、吊り橋の小暮沢側の入口に集結した捜索班は、吊り橋を見て困惑した。
「大丈夫ですか」
「落ちないですか」
不安を口にする者が続出した。
そこにライフル銃を肩に掛けた大柄な男がやってきた。
坂口だった。
坂口は班のリーダーである室町に挨拶をした。
「はじめまして、坂口です」
「石束署の室町です。きょうはよろしくお願いします」
室町は坂口と握手を交わした後、坂口を捜索班に紹介した。
「猟友会の坂口さんです。坂口さんから皆にお話があります」
坂口は捜索班の面々に小さく頭を下げて、話し始めた。
「山での捜索は危険が伴います。捜索範囲っていうんですか。私がそこを先に下調べします」
「はい」
「私が安全を確認した後で、捜索に入ってください」
「皆、わかった?」
捜索班の面々は無言で頷いた。
坂口が室町に囁いた。
「いぶきちゃん、見つかるといいですね」
そう言うと、坂口は新たに施された吊り橋の造作を気にすることなく、橋を渡り始めた。
室町も坂口の後を追った。
長尺の合板の上を慎重に歩を進めた。
橋の途中で室町は、入口で渋滞している捜索班を振り返った。
「何してるの。ついてきて」
× × × × × × ×



