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ヒトサシユビの森

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稲山神社の境内と社殿はくまなく捜索された。
しかし室町たちは、いぶきを見つけることができなかった。
室町は稲荷山の地図を見つめ、途方に暮れた。
「なんで見つけられないんだろう」
室町は陽が沈んで色を失った西の空を見つめて、溜息をついた。
同僚から発見に至らずの報告を受けた江守も、焦りの色を滲ませた。
「稲山神社の駐車場を通ったことは確かなので、ここしか・・・」
室町は再び稲荷山の地図を広げた。
「範囲を広げるしかなさそうね」
室町は地図の上端を指した。
江守がその地名を読んだ。
「小暮沢ですか」
「もう一日神社周辺を捜索して、それでも見つからなければ」
「何もないところですよ、小暮沢」
その夜、室町は石束総合病院に向かった。
進捗状況を直接かざねに報告するためだった。
病院の専用駐車場に着くと、いつもより駐車している車の数が多い。
明らかにテレビ局の車両と思われるものもあった。
室町の胸中は、嫌な予感しかなかった。
病院の玄関に行くと、複数のメディア関係者に室町は取り囲まれた。
「いぶきちゃんは見つかりましたか」
「母親の溝端かざねさんはこの病院にいらっしゃるんですよね」
「今回の件と6年前の事件と関係あると思われますか」
記者たちがレコーダーを室町に向け、矢継ぎ早に質問を浴びせた。
「いぶきちゃんは捜索中です。以上」
室町はレコーダーを手で払いのけた。
「母親の心境をみんな知りたがっています」
「ぜひかざねさんの囲み取材を」
室町は十数人はいる記者やカメラクルーたちを眺め回して、小声で尋ねた。
「あなたたち、この病院にかざねさんがいるって、どこで知ったの?」
記者たちは顔を見合わせた。
「それは・・・噂です」
ひとりの記者が答えた。
その隣で別の記者が、スマホを取りだして動画を再生した。
「決め手はこの動画ですけど」
記者はスマホ動画を室町に見せた。
動画の舞台は、石束総合病院1階のロビー。
年配の患者やその家族らがソファーに掛け、備え付けのテレビを見ている。
ソファーに挟まれた通路に立ついぶきとかざね。
かざねが右腕を振りあげる。
衆人環視の中、かざねがいぶきの頬を平手打ちする。
よろめいて床に倒れるいぶき。
動画のタイトルは、”毒親ふたたび”となっていた。
「他の角度からの動画もあがってます」
室町は天を見あげて、目を閉じた。
目を見開いて、コメントを待つ記者たちを見渡した。
「今夜はみんな帰って。病院に迷惑だから」
「しかし室町さん・・・」
「私の言うことが聞けないの?」
「警察の記者会見を開く予定は?」
「ありません。そうね、開いたとしても、いまここで帰らないメディアさんは出禁にします」
「出禁って・・・」
記者たちがざわついた。
「妄想で捏造記事を書いた社も出禁ね」
室町が睨みを利かすなか、メディア連中はこぞって病院前から退却した。
石束総合病院の玄関先でひとりになった室町は、深い溜息をついた。

作品名:ヒトサシユビの森 作家名:椿じゅん