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ヒトサシユビの森

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4.ナカユビ





白いハンカチを巻いた角材の端に、いぶきが指をかけている。
自らかけているのではなく、坂口たちに手足を抑えつけられ無理やりかけさせられているのだ。
角材に載せられた指は。いぶきの右手の人差し指1本。
目隠しをされたいぶきは、恐怖に震えた。
深い森に囲まれた小さな丸太小屋の中である。
その室内は、大小のロッカーが壁の二面を占め、作り付けの棚には工具箱やロープの類が積み上げられてあった。
はめ殺しの窓には厚手のカーテンが引かれている。
木製の厚みのあるテーブルが部屋の中ほどにドンと置かれ、その周囲を4人の男が取り囲んでいた。
茶髪の玉井が、いぶきの背後に立って逃げ道を塞いだ。
髭面の坂口は。その太い指でいぶきの細い手首を押さえ、いぶきの手が動かないよう固定した。
健市が、眼鏡をかけた茂木に合図を送った。
合図を受けた茂木は、深呼吸して医療用のメスの刃先についているカバーを外した。
メスを持つ茂木の手が小刻みに震え、額に汗が光った。
小屋の梁に吊るされた2つのランタンが、子どもと男たちを照らす。
同時に、小屋の壁面に男たちの濃い影を作った。
健市は、密閉されたプラスチックの虫かごをランタンの灯りに透かした。
腐葉土が敷いてある虫かごのなかに、百匹を下らない蛆虫の群れがうねうねとうごめいた。
いぶきの口に、涎が垂れないよう猿ぐつわをかまされた。
歪んだ表情から怯えていることは明らかだった。
角材に載せられた指もまた、恐怖から逃れようと震えていた。
茂木は、メスを握ったまま、慄くいぶきを見つめ立ちすくんだ。
すぐ隣に立つ健市に対し、首を横に振った。
健市は苛立ちを露わにした。
茂木を突き飛ばした。
茂木はマスクを外して、小屋の外へ出ていった。
健市は、坂口の腰に手を伸ばした。
坂口はベルトにステンレススチールのサバイバルナイフを装着していた。
健市は、鞘からサバイバルナイフを抜き出すと、それを角材の上に突き立てた。
間髪入れず健市は、そのナイフの刃先をいぶきの人差し指の付け根にまっすく振りおろした。
丸太小屋の外で、茂木はいぶきの悲鳴を聞いた。
耳を塞ぎたくなるような、苦悶に満ちた声だった。
「おい、慎平」
小屋から出てきたのは、坂口だった。
「ガキの手当てをしてやれ」
茂木が小屋に戻ると、虫かごと割り箸を持った健市が薄笑みを浮かべて立っていた。
健市は、血染めの角材に放置されたいぶきの人差し指を箸で摘まんで、虫かごのなかに入れた。
虫かごには無数のウジ虫が這いまわっている。
「どうだ、慎平。これでこの指も明日には骨だけになる」
テーブルの周囲にいぶきはいなかった。
いぶきは作業台に寝かされていた。
気を失っているようだった。
いぶきの右手は、アルマイトのボウルに突っこまれていた。
血染めのタオルが幾重にも巻かれた状態だった。
「慎平、これであの白骨遺体は、溝端いぶきだ」
茂木は大きな身振りで首を横に振った。
「だから、無理があるって」
「慎平の頼みを聞いてやったんだ。いぶきの命は取らない」
茂木は浮かない顔で、救急箱から消毒液と包帯を取りだした。
「だから慎平、今度は俺の頼みを聞いてくれ」
「母親が同じでも父親が違うから、明確な違いが出るんだよ、DNA」
「そこを何とかしてくれって言ってんだよ」
「それで、その後は?」
「前回はしくじった。詰めが甘かった」
そう言って、健市は坂口や玉井らを舐めるように見回した。
「今回はミスらねぇ」

作品名:ヒトサシユビの森 作家名:椿じゅん