ヒトサシユビの森
「すみません」
防犯カメラ映像の再生を待っている間も、江守は室町の前で身を縮めた。
「あんたが謝ることない」
「軽率でした。軽い気持ちで他人の子を預かってしまって」
「仕方ないわ。あの人混みじゃ」
「署長にこっぴどく叱られました」
「放っておけばいいのよ、署長の言うことなんか」
「でも・・・」
「私が江守に、かざねさんの世話を頼んだのだから、私の責任」
「すみません」
「いまは、いぶきちゃんの捜索に集中しましょう」
警察官が見守るべき子どもを見失う。
江守の親切心とはいえ、目を覆いたくなる失態だ。
この失態を取り返すには、いち早く子どもを発見するしかなかった。
これはいち警察官の問題に留まらなかった。
道の駅に残った室町は、生活安全課のみならず刑事課も巻きこんで対応に当たった。
すぐさま、道の駅とその周辺の防犯カメラ録画を回収した。
専門職を集め、解析にあたらせた。
たかが、行方知れずになった5歳児のために。
6年前不起訴のなった鬼母のために。
なぜ非番の警察官まで動員して捜索する必要があるのか、と石束警察署には疑問の声もあった。
室町は、詳細な理由は告げず、ただ各部署に頭を下げて依頼に回った。
室町には、失踪の痕跡を残したまま6年もの間、発見に至らなかったさちやのことが常に胸のうちにあった。
曖昧な目撃証言で『誤認逮捕』といえる状況で拘束してしまった、かざねに対する申し訳なさもあった。
いぶきはかざねの第二子らしい。
年齢的には、行方不明当時のさちやと同い年。
さちやと同様な事態に、いぶきが巻き込まれることだけは避けたかった、
かざねに、第二子までも失わせるわけにはいかない。
そんな思いで、室町は防犯カメラの再生映像を見つめた。
警備室に設置された防犯カメラの液晶モニターは、いずれもモノクロではなくカラーである。
落成式のテント群を映すモニター。
パーキングに出入りする車を映す映像。
営業している店に行列ができている映像。
だが大勢の来場者に紛れているのか、いぶきは映っていない。
場内の雑踏のなか、オレンジ色の風船の映像に、室町は目を留めた。
風船を配るイベントは、落成式ではなかったはず。
それが証拠に、道の駅内で風船を持ってる子を、室町はひとりも見かけていない。
オレンジ色の風船は、人混みのなかを、滑るように移動した。
「この風船に寄って。子どもが持ってるよね。子どもを映せない?」
風船は画角の外に消えた。
子どもは映っていなかった。
「どこに行った?」
分析班は複数の防犯カメラ映像の時間やサイズを調整した。
他のどのカメラ映像にも、いぶきどころか風船を映した映像すらなかった。
室町は溜息をついて、分析班の肩を叩いた。
「時間を戻して。次は不審な人物がいないか調べましょう」



