ヒトサシユビの森
落成式の式典を終え、ごくわずかな関係者を除いて、道の駅にはほぼ一般市民の姿はなくなった。
民間の警備員も撤収を始めたが、いしづか道の駅には、制服私服問わず多数の警察官が残留した。
いぶきを捜すためであった。
周囲をフェンスで囲まれており、決して広くはない敷地。
しかも多数の警察官、警備員が配置されていた。
捜し始めれば、早い時間に見つけることができるだろう。
江守は高をくくっていた。
だが、いぶき発見できず同僚警官からの連絡もなく、夜を迎えてしまった。
江守は、かざねに対して責任を感じた。
「私がついていながら、申し訳ありません」
駆けつけた室町とかざねに頭を下げて謝罪した。
「ごめんなさいね、かざねさん」
室町がかざねに言った。
「いえ。こちらこそご迷惑をかけてしまって・・・」
「ところで、雪乃さんの具合はどうなの?」
かざねは無言で顔を曇らせた。
「そう、心配ね」
室町は江守を右側に立たせて言った。
「石束署をあげて、いぶきちゃんを必ず探しだして保護します。だから、かざねさんは雪乃さんの傍にいてあげて」
室町はかざねの反応を待った。
かざねは小さく頷いた。
かざねは江守に付き添われて、道の駅のパーキングを後にした。
室町はパーキングに残って、かざねを見送った。
部下からの報告に耳を傾け、新たな指示を出す。
パーキングのゲートが閉じられた後も、水銀灯は辺りを照らし続けた。
非番の石束署員も動員されて、いぶきの道の駅周辺での捜索は夜遅くまで続いた。
落成式の名残のアドバルーンが星空に揺れていた。
ジャッキアップしたトラックの下に、亮太は潜っていた。
レンチを持つ手が震えて、作業にならない。
亮太がトラックの下に潜ったのは、作業を続けるためではなかった。
いましがた見聞きしたことを頭の中で整理するためだった。
まさか、専務が。まさか、蛭間議員が・・・。
聞かなければよかった、という後悔も渦巻いた。
悪い冗談だ。
しかし、いまだ行方と生死のわからないさちやの真相を彼らが知っているとしたら・・・。
階段を降りる複数の足音がして、坂口が整備工場へやってきた。
車の下の亮太に声をかけた。
「おい、亮太」
亮太は荷台の下から油にまみれた顔を出したが、坂口の顔を直視できなかった。
「お前、さっき階段のぼってこなかったか」
亮太は首を小さく振って
「すみません、ずっとここに居ました」
「そうか」
坂口は素っ気ない返事をした。
「専務、それよりこのトレーラー、限界ですよ」
「ああ、わかってる。もう少し延命させてやってくれ」
坂口はそう言って整備工場から立ち去った。
亮太は遠ざかる坂口の後ろ姿を見ながら、恐ろしい会話を頭の中で反芻した。
『あの日、俺たち4人で土をかけたろ。健市が掘った穴に』
『死んだことを確かめてない』
誰を埋めた?
誰を殺した?
まさか、さちやじゃないだろうな。
まさか・・・。
亮太は震える手で、レンチを握りしめた。



