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ヒトサシユビの森

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道の駅のパーキングは落成式のため、一般車両は当該日のみ入庫が不可とされた。
そのため、停まっているのは関係者の車十数台のみであった。
そのパーキングで、イベント会社の若者たちが、ライトバンの荷台にスピーカーやケーブルを積んでいた。
そこから離れた場所に、坂口建設の2トントラックもあった。
亮太がトラックの荷台の横板を締めていると、警察官が近づいてきて亮太に尋ねた。
「すみません、お仕事中。迷子の子どもを捜しているのですが、見かけませんでしたか」
「迷子の子ども? 見てませんけど」
「この子なんですが」
警察官は小型のタブレットの映るいぶきの写真を、亮太に見せた。
道の駅の案内板の前で、江守が記念に撮った写真だ。
亮太はいぶきの顔写真を流し見たが、視線を留めた。
胸のあたりにざわつくものがあった。
「この子は?」
「溝端・・・」
言いかけて警察官は言葉を切った。
あらためて
「見かけませんでしたか」
と念を押すように、亮太に尋ねた。
亮太の中で、過去の出来事がフラッシュバックした。
”いまの子、溝端さちやじゃないのか”
亮太は混乱した。
トラックの運転席のほうから声がした。
「おい、亮太。行くぞ」
「はい」
と運転席に向かって大きな返事をした亮太は、「見てないっす」と警察官に言い。トラックの助手席に乗りこんだ。

グランドオープンの前とあって、開店している道の駅店舗は限られていた。
開店していた店も早々に営業を切りあげる。
来場者が徐々に減っていく道の駅のなかを、かざねと江守はいぶきを捜し続けた。
いぶきと背格好が似た子どもは幾人かいたが、服装がいぶきではなかった。
日が沈み、パーキングの水銀灯に火が灯った。
店舗の軒先に吊るされた提灯も淡い光を放っていた。
「どこ行っちゃったのかしら」
見つからないいぶきに、江守は焦った。
無線を繋いだ警察官らからも、いぶき発見を知らせる連絡は来ない。
建物の陰、車の下、いぶきの捜索は道の駅の隅々に及んだ。
しかし日が暮れても、かざねと江守はいぶきを見つけることができなかった。

作品名:ヒトサシユビの森 作家名:椿じゅん