ヒトサシユビの森
いぶきは彷徨いながらも、警察官が追いかけてきてやしないか、何度も後方を振り返った。
いつしか、警察官の姿は見当たらなくなった。
しかしそこにあったのは、オレンジ色のゴム風船だった。
丸く膨らんでいて、縛った口には細い紐が垂れていた。
いぶきの目の高さあたりで浮いていた。
気にはなったが、警察官から逃れるほうが先だ。
いぶきは何度も後ろを振り返った。
警察官はいなかった。
だが、オレンジ色の風船が一定の間隔を保ってついてきた。
いぶきが止まると、風船も止まった。
いぶきは風船を捕まえようと、風船に近づいた。
すると風船は一定の間隔を保つべく、いぶきから離れた。
いぶきが近づく。
風船が離れる。
それを繰り返すうちに、いぶきは風船を追いかけ始めた。
風船に誘導されるままに、道の駅内を走り回った。
「すみません、見失ってしまいました」
いぶきを追った警察官は無線で、江守に詫びを入れた。
「しょうがないなあ。捜索を続けて」
江守はかざねに向き直って言った。
「でも安心して。道の駅は出入口がひとつだし、周りはフェンスで囲まれてる。警官も警備もいるし、きっと見つかる」
かざねは迷惑をかける申し訳なさと、かすかな失踪の不安で顔を曇らせた。
「とにかく迷子の呼び出しをしてもらいましょう」



