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ヒトサシユビの森

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人と人の隙間を押し広げたり足の間を?い潜ったりして、いぶきはやっと後方の人垣から外に出た。
招待された石束の市民や家族連れが、真新しい観光施設を思い思いに行き交っていた。
交通整理や歩行者誘導に借りだされていた警察官たちが、落成式会場に集まってきた。
そのうちのひとりの警察官がいぶきを見つけた。
「いぶきちゃん、だね」
と警察官が近づいたが、いぶきは警察官から逃げた。
いぶきには、すべての大柄な成人男性が恐怖心を煽る対象でしかなかった。
追いかけてくる警察官の気配を背中に感じながら、いぶきは来場者が絶えない道の駅を彷徨った。

「これにて、いしづか道の駅落成式を終了いたします」
女性司会者のアナウンスが流れた。
椅子席では観覧客らがおのおの席を立つ。
ステージでは、健市が低姿勢で来賓客の退席を見送った。
最後までステージ上に残った健市は、気づかれないように坂口にハンドサインを送った。
4本の指を立てたハンドサインを受け取った坂口は、険しい表情で頷いた。
作品名:ヒトサシユビの森 作家名:椿じゅん