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ヒトサシユビの森

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人と人の隙間を押し広げたり足の間をかい潜ったりして、いぶきはやっと後方の人垣から外に出た。
招待された石束の市民や家族連れが、真新しい観光施設を思い思いに行き交っていた。
交通整理や歩行者誘導に借りだされていた警察官たちが、落成式会場に集まってきた。
そのうちのひとりの警察官がいぶきを見つけた。
「いぶきちゃん、だね」
と警察官が近づいたが、いぶきは警察官から逃げた。
いぶきには、すべての大柄な成人男性が恐怖心を煽る対象でしかなかった。
追いかけてくる警察官の気配を背中に感じながら、いぶきは来場者が絶えない道の駅を彷徨った。

「これにて、いしづか道の駅落成式を終了いたします」
女性司会者のアナウンスが流れた。
椅子席では観覧客らがおのおの席を立つ。
ステージでは、健市が低姿勢で来賓客の退席を見送った。
最後までステージ上に残った健市は、気づかれないように坂口にハンドサインを送った。
4本の指を立てたハンドサインを受け取った坂口は、険しい表情で頷いた。

いぶきは彷徨いながらも、警察官が追いかけてきてやしないか、何度も後方を振り返った。
いつしか、警察官の姿は見当たらなくなった。
しかしそこにあったのは、オレンジ色のゴム風船だった。
丸く膨らんでいて、縛った口には細い紐が垂れていた。
いぶきの目の高さあたりで浮いていた。
気にはなったが、警察官から逃れるほうが先だ。
いぶきは何度も後ろを振り返った。
警察官はいなかった。
だが、オレンジ色の風船が一定の間隔を保ってついてきた。
いぶきが止まると、風船も止まった。
いぶきは風船を捕まえようと、風船に近づいた。
すると風船は一定の間隔を保つべく、いぶきから離れた。
いぶきが近づく。
風船が離れる。
それを繰り返すうちに、いぶきは風船を追いかけ始めた。
風船に誘導されるままに、道の駅内を走り回った。

「すみません、見失ってしまいました」
いぶきを追った警察官は無線で、江守に詫びを入れた。
「しょうがないなあ。捜索を続けて」
江守はかざねに向き直って言った。
「でも安心して。道の駅は出入口がひとつだし、周りはフェンスで囲まれてる。警官も警備もいるし、きっと見つかる」
かざねは迷惑をかける申し訳なさと、かすかな失踪の不安で顔を曇らせた。
「とにかく迷子の呼び出しをしてもらいましょう」

作品名:ヒトサシユビの森 作家名:椿じゅん