ヒトサシユビの森
1.オヤユビ
白いハンカチが巻かれた角材の端に、幼い子どもが指をかけている。
自らかけているのではなく、屈強な男たちに手足を抑えつけられ、無理やりかけさせられているのだ。
角材に載せられた指は、子どもの右手の人差し指1本。
目隠しをされた子どもは、恐怖に震えた。
深い森に囲まれた小さな丸太小屋の中である。
その室内は、大小のロッカーが壁の二面の大部分を占め、作り付けの棚には工具箱やロープの類が積み上げられてあった。
はめ殺しの窓には、厚手のカーテンが引かれている。
木製の厚みのあるテーブルが部屋の中ほどにドンと置かれ、その周囲を4人の男が取り囲んでいた。
細面で茶髪の男が、子どもの背後に立って逃げ道を塞いだ。
大柄で髭面の男は、その太い指で子どもの細い手首を押さえ、子どもの手が動かないよう固定した。
スーツ姿の男が、小太りで眼鏡をかけた男に合図を送った。
合図を受けた小太りの男は、深呼吸して医療用のメスの刃先についているカバーを外した。
メスを持つ小太りの男の手が小刻みに震え、額に汗が光った。
小屋の梁に吊るされた2つのランタンが、子どもと男たちを照らす。
同時に、小屋の壁に男たちの濃い影を作った。
スーツ姿の男は、密閉されたプラスチックの虫かごをランタンの灯りに透かした。
腐葉土が敷いてある虫かごのなかに、百匹を下らない蛆虫の群れがうねうねとうごめいた。
子どもは、よだれが垂れないよう猿ぐつわをかまされた。
歪んだ表情から、怯えていることは明らかだった。
角材に載せられた指もまた、恐怖から逃れようと震えていた。
小太りの男は、メスを握ったまま、慄く子どもを見つめ立ちすくんだ。
すぐ隣に立つスーツの男に対し、首を横に振った。
スーツの男は苛立ちを露わにした。
小太りの男を突き飛ばした。
小太りの男はマスクを外して、小屋の外へ出ていった。
スーツの男は、髭面の男の腰に手を伸ばした。
髭面の男はベルトにステンレススチールのサバイバルナイフを装着していた。
スーツの男は、鞘からサバイバルナイフを抜き出すと、それを角材の上に突き立てた。
間髪入れず男は、そのナイフの刃先を子どもの人差し指の付け根にまっすく振りおろした。
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