ヒトサシユビの森
石束警察署・署長室。
室町はいきり立って、署長の天馬に詰め寄っていた。
「指揮権はこちらにあるはずでしょう。なんで神室署の連中が・・・」
「合同捜査だ。神室署の協力を得なければ、川の捜索もままならなかった」
「にしても、まださちやくんの生死もわからない段階で」
「目撃者が現れた」
「えっ?」
「神室署に情報提供があった」
「待ってください。我々は近隣の住宅、民家、通行する車、全部訊いて回りました」
「釣り人だ」
「釣り人、ですか」
「夜釣りってやつか。帰りぎわに見たらしい」
「何を、何を見たんですか」
「橋の欄干の上に小さな子どもが立っているのを。その傍に母親らしい人影もあったそうだ」
「証言を得たんですね、その釣り人から?」
天馬は頷いて続けた。
「だが目を切って、もう一度見たら、橋の上に誰もいなかったそうだ」
室町は天馬が言ったことを頭の中で描いて、反論した。
「橋の上に、母親が橋の上に戻しただけじゃないですか」
「かざねがそんなこと言っていたか」
かざねの証言に、橋の話はなかった。
室町は反駁できず、沈黙した。
「川からさちやくんの靴とパーカーが見つかった。それが何よりの証拠だ」
「まだ、さちやくんは見つかっていません」
「失踪から72時間が過ぎた。室町くん。神室の連中と協力して事件を解決してくれ」
「かざねさんは?」
「かざねの身柄はうちで預かる。起訴されるまでな」



