ヒトサシユビの森
3日間、自宅で待機したが、犯人からの接触はなかった。
端から身代金誘拐などあり得ないと、かざねは室町らに訴えたが、説得されて3日間電話を待ち続けた。
そして4日目の朝、ドアチャイムが鳴り、かざねはドアスコープを覗いた。
江守がいた。
昨日、一昨日同様、7時30分。
4日目の江守は少し様子が違った。
挨拶をするでもなく、黙ってドアの前に立っていた。
かざねはドアを押し開けた。
直立する江守の背後に、トレンチコートの男が立っていた。
男の後方には、黒いスーツの男たちが数名。
トレンチコートの男は、江守を押しのけてドアを大きく開いた。
ふたりのスーツの男たちがトレンチコートに続いて、土足のまま、乱暴に室内に押し入った。
トレンチコートの男は、薄い紙を掲げてかざねに言った。
「溝端かざねだな。君を死体遺棄の容疑で逮捕する」
かざねは一瞬、耳を疑った。
薄い紙は、かざねに対する逮捕令状だった。
逮捕容疑は、溝端さちやの死体遺棄。
かざねは雷に打たれたように驚愕した。
「なんで・・・」
茫然と立ち尽くすかざねは、なす術もなく後ろ手に手錠をかけられた。
連行される間際、玄関に佇む江守に
「江守さん、なんで、私が?」
江守は黙って俯いた。
「何とか言って」
かざねはスーツの男たちに訴えた。
「何かの間違いです、私は何もやってません。何かの間違いです」
かざねの懸命の訴えにも関わらず、男たちは抵抗するかざねを黒塗りのクラウンまで引きずった。
ちょうどそのとき、旧型のパジェロがふらつきながら前庭に突っこんできて停車した。
乱れた身なりの溝端雪乃が、車から降りてきた。
足取りが怪しかった。
男たちを見て、雪乃は
「ちょっと、あんたたち」
ろれつも怪しかった。
「母さん!」
男たちは雪乃に構わず、かざねを車に押しこんだ。
トレンチコートが助手席に乗りこむと、クラウンはエンジンを唸らせた。
「待ちなさい!」
雪乃は、前庭から出ていくクラウンを追いかけようと、パジェロのドアに指をかけた。
雪乃の手を、江守が制した。
「雪乃さん」
「何?」
「お酒臭いです」
「あんた、誰?」
雪乃が見た江守は、警察官の制服を着用していた。



