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ヒトサシユビの森

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石束警察署の面談室にかざねはいた。
鉛色のテーブルを挟んでひとり、パイプ椅子に掛けていた。
テーブルの上には、水の入ったコップとボールペン、それと捜索願の用紙が置かれている。
かざねは捜索願を書き終えたばかりで、江守が戻ってくるのを待っていた。
ドア越しに、廊下のほうから話声が聞こえてきた。
ひとりは江守と思われた。
もうひとりも、低い女性の声である。
かざねは聞くとはなしに、耳をそばだてた。
「溝端雪乃の娘さん?」
立ち話の相手は、江守の上司の室町であった。
「ご存じなのですか」
「ええ、あの母子がこの町に越してきたときからね。町はずれの古い洋館」
「ああ、ありますね。この町には場違いな洋風な建物が」
「相続で手に入れて住みついたようなんだけど、その雪乃って女がね・・・」
「聞いたことがあります。占い師をやってるとか」
「自称、占い師ね。いつもジプシーみたな奇抜な恰好してて」
「それであの洋館も、なんか変な名前で呼ばれてます。魔女の家とか魔女の館とか」
「だからさ、娘のかざねも、学校で・・・」
「いじめ、ですか」
「言っても田舎だからね、石束。よそ者を嫌うのよ」
「気の毒な面もあるわけですね」
「それで、失踪したのは、かざねの子ども?」
会話が途切れた。
面談室に現れたのは、江守ではなく、鼠色のスーツを着た中年女性であった。
バインダーをテーブルの上に置き、椅子に掛けた女性は、かざねと対面した。
「溝端かざねさんですね。江守から話は聞きました。私、生活安全課の室町です」
室町はバインダーから名刺を一枚引き抜いて、かざねの前に提示した。
名刺には、課長の肩書が記してあった。
「かざねさん、私のこと、憶えてる?」
かざねは目を細めて室町の顔を見た。
切れ長の鋭い眼光。
尖った鼻筋。
憶えのある顔だったが、遠い記憶だった。
かざねは「いいえ」と首を横に振った。
「あなたが中学生の頃よ。学校でトラブルが起きたとかで、当時まだヒラの警察官の私が学校に駆けつけた」
かざねは室町の話を聞きながら、コップの水をひと口飲んだ。
「そしたらなぜかあなたのお母さまも学校に来ていて、彼女が相手の子に手を出した」
かざねは当時の出来事を思いだせずにいた。
「少しエキゾチックな美少女。それが初対面のときのあなたの印象」
室町は、捜索願の書面を手元に寄せた。
「かざねさん、お子さんがいたのね。知らなかった」
かざねは黙ったまま、不安な瞳を室町に向けた。
かざねの事情を詮索するときではないと考えた室町は、話題を変えた。
「お母さま、雪乃さんは、お元気?」
「はい」
かざねは小声で答えた。
「まだお酒を飲んでらっしゃるのかしら」
「だいぶ、量は減りました」
「お酒を飲んでの車の運転は危ないから、絶対しないように、言っといてね」
「はい、伝えておきます」
ノックの音がして、江守が入ってきた。
「室町課長、県警の応援の準備が整いました」
「警察犬は?」
「2頭」
「よかった」
室町は腕時計を見て、かざねに向き直った。
「かざねさん、さちやくんは私たちが必ず見つけだします。弱気にならないで」
そう言うと室町は、バインダーを脇に抱えて立ちあがった。
面談室を去り際に、室町はかざねに言った。
「さちやくんが見つかったら、すぐに手続きするのよ。役所に出生届」
かざねは小さく頷いた。

作品名:ヒトサシユビの森 作家名:椿じゅん