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質より量

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 ということであろう。
 ただ彼は頭がよかった。
 だから、今回の計画を立てたのは、坂田だった。
 坂田は、
「警察に捕まることはないさ」
 といっていたのだが、それはあくまでも、
「自分たちのような、こんな動機がこの世に存在するなんて、警察に分かるわけはないさ」
 と真剣に思っていたのだ。
「警察なんて、小説やテレビドラマよりも、よほど単純な捜査しかできないだろうからな」
 と思っていて、ある意味、
「甘く見ていた」
 ということであろう。
 さらに、自分のことを、
「天才だ」
 と思っていて、
「俺は警察に挑戦状をたたきつける」
 というくらいに考えていた。
「警察なんて、どうせ、何か起きないと、何もしてくれないさ」
 と思っていたのだ。
 実際に、
「親から暴行を受けた」
 ということがあり、近くの交番に訴え出たということであったが、実際には、そのまま、交番から家に連れて帰られて、警察に駆け込んだことが分かってしまい、さらに、ひどい目に遭ったということであった。
 だから、しばらくしてから、虐待というのが明るみになり、以前のこともあって、
「警察に言っても、俺がまたひどい目に遭うだけだ」
 と思ったことで、警察に何を着かえれても、
「黙秘を貫いた」
 ということであった。
 世間は、
「気の毒だ」
 とは言ってはくれるが。その視線は、
「汚いものを見る」
 という視線だったという。
 本当にそうなのかは分からないが、きっと、それは、
「汚いものを見る」
 というよりも、
「強行現場を見てしまった」
 という時の、目をそらす視線だったことだろう。
 いじめを受けている人には、そんな理屈は通用しない。
 結局、
「皆人間というのは、同じなんだ」
 ということで、
「虐待した親」
 というのも、
「警察という、善意の皮をかぶった悪魔」
 というのも、
「善良な顔をして、善意の第三者を演じている外野の連中」
 というのも、
「皆、同じ人間なんだ」
 と思っていたのだ。
 だから、彼は、
「悪魔になった」
 それが、
「親に対しての」
「警察に対しての」
「世間というものに対しての」
 復讐ということであり、
「挑戦だった」
 といってもいいだろう。
 それを考えると、
「こんな犯罪だってあるんだ」
 ということで、
「世間に一泡吹かせる」
 ということである。
「本来なら、その恨みを小説か何かに書けば、それでも十分、復讐にも、挑戦にもなるのに」
 と、捕まった時、坂田少年に言ったが、坂田少年は笑いながら、
「ああ、そうだね。その手があったね」
 といって笑っていたという。
「そのことに早く気づいていれば、俺は今ごろ、印税生活だよな」
 といって笑っていたが、その後一言言ったのが、
「どうせ、俺の作品も、すぐに忘れさられるだけさ」
 と彼は言った。
「だけど、君くらいの頭があれば、似たような作品だって、少しずつ変えて、バラエティ豊かな作品になるんじゃないか?」
 と刑事がいうと、
「そうかも知れないな。どうせ、俺は警察に捕まるような作品しか書けないわけで、それだけに、質より量ということになるのかも知れないな」
 と坂田がいうので、
「そうですね。その時は、いずれ、完全犯罪が書けると思って書き続ければいいんですよ」
 と刑事がいうと、
「無理ですね。この犯罪が、こうも簡単に露呈したんだから、俺の実力なんて、その程度のものなのさ
 というのであった。
「質より量」
 これが、坂田の信条なのであろう。

                 (  完  )
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作品名:質より量 作家名:森本晃次