一つではない真実
本当は一番怪しい奥さんであるが、
「旦那が、浮気調査をしていることを、果たして奥さんは知っていたのだろうか?」
ということも、問題になる。
「知っていた」
ということであれば、
「状況証拠」
という意味での、
「殺害動機」
ということで、ありえることだといえるだろう。
実際に、腐乱死体が見つかったその時、
「奥さんは、不倫男とは、別れていた」
ということになっている。
その辺の事情は、警察が調べたのだから、間違いないだろう。
ただ、
「破局を迎えた」
というのは、
「腐乱死体が見つかる少し前」
ということで、
「タイミングとしては微妙だった」
といってもいいだろう。
ただ、
「放火殺人」
というものが、
「今度の腐乱死体の発見」
ということ、そして、
「発見したことで、放火殺人とかかわりがある」
と思わせたことに何も意味があるというのだろうか?
そこで、秋元刑事は、一つの大きな仮説を立ててみた。
というのは、
「二人による交換殺人ではないか?」
ということであった。
「一人は、奥さんであるということに間違いないだろう」
と思ったが、もう一人は分からない。
本来、
「交換殺人というと、実行犯と、殺したい人間がそれぞれ入れ替わる」
ということから、
「殺したい人間に、完璧なアリバイを作る」
ということが目的である。
しかし、今回のように、
「殺したい相手」
というのが、ハッキリしない場合、
「交換殺人というものが成立しない」
といえるだろう。
だから、
「もう一人の犯人は分からない」
ということになる。
さすがの秋元刑事も、
「交換殺人」
というところまでは分かっていたが、真犯人としては、
「実はそこくらいまでは分かっていた」
ということで、
「上には上がいる」
ということであった。
ただ、気になっていたのは、
「殺されたのが探偵だ」
ということであった。
「放火殺人」
というものから、20年が経って、今では、佐久間探偵事務所は、
「当時は助手だった」
という水上が、そのまま探偵時事務所を構えていた。
今ではすでに佐久間探偵の年齢を通り越し、その持ち前の、
「天才的頭脳」
から、今でも、
「探偵事務所を、堂々と切り盛りしているのであった」
そもそも、佐久間探偵が、この事務所に対して登記していたものや、財産が、
「探偵社名義」
となっていたことから、そのまま継承することができ、
「事件で得をした人間」
ということで、
「今となってみれば、水上探偵だったのではないか?」
ということになる。
そう、この事件の主犯は、
「水上探偵」
であった。
本来であれば、
「探偵が被害者」
ということから、
「水上助手」
というのが疑われるはずであったが、それが表に出てこなかったのは、
「佐久間探偵の躊躇」
というものがあったからだ。
かつて、穴に埋められていた捜査資料。つまり、浮気調査の内容は、改ざんされたものだった。
というのも、そこに、
「浮気相手の名前があってはまずい」
ということからだ。
その浮気相手というのが、実は、
「助手」
のことであった。
しかも、これは
「不倫」
ということではなく、
「犯罪計画を練っている」
ということであり、これを、
「不倫調査」
ということを探偵が証明してくれれば、もし、相手が後で分かったとしても、それは、不倫であり、あくまでも、犯罪計画を練っている現場だとは思わせないという、計画だったのだ。
そういう意味で、
「この事件には、二重三重のトリックが含まれていて、一つが瓦解すれば、もう一方が機能する」
というような、綿密なものだった。
だから、秋元刑事は、事件のギリギリまでを解明できたが、最後の最後の詰めまでは見ることができなかった。
そこに、
「限りなく、ゼロに近い」
というものであったり、
「交わることのない平行線」
という考え方が存在し、その発想が、
「百里の道は九十九里を半ばとす」
という言葉もあるが、
「相手にいかに、ここまでくれば大丈夫だ」
ということを感じさせるか?
ということが問題になってくるというものである。
つまり、
「水上助手の築いた結界」
というものにより、事件が最終的に、迷宮入りしてしまったということになるのだろうが、秋元刑事としても、
「本当は分かっていたかも知れない」
と思っていた。
それは、
「事件を解明することで、誰も得をしない」
ということと、
「真実が一つではない」
ということを、
「思い知らされた」
と感じたからに違いない。
それが、本当に、水上による、
「二重三重の策」
ということなのか、20年経った今でも、秋元刑事には分からない状態だったといえるだろう。
( 完 )
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