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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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朽ちた聖域 Ⅳ真の聖域へ

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 廃教会で「秀仁さん」を発見した日から1年が経過したが、彼を法的に引き取ることのできる人はついに現れず、行政的な手続きを経て、彼は市内の共同墓地に改葬されることが確定した。亜美、濱内、伊藤さん、寺田先生は改葬式への列席を決意し、杉内先輩もスケジュールを調整して列席してくれることになった。

 改葬は隣の市の教会の神父の司式で執り行われた。秀仁さんがどんな人生を送ったのか、亜美たちには分からない。ただ、彼は音楽を愛し、当時の幼子の代父を任されるほど信頼されていた人物であることは、容易に想像がつく。


 やがて骨壺が納められようとするとき、亜美たちの目の前がぼんやりと明るくなり、青白い光が柔らかく彼らを包み込んだ。
 杉内先輩の右手が突然温かくなり、まるで握手をした相手の温かさが伝わるかのように感じられた。彼が正面を向くと、儚げな微笑を浮かべる青年が自分の右手を両手で包んでいる。その姿を見て、彼は小さく震えながら涙腺を締めた。
(秀仁さん、いつかまた会えたときには、俺たちとセッションしましょう…)
 次に、伊藤さんも杉内先輩と同様に右手が突然温かくなった。
(誰かが俺の手を握ってる…?)
 そう思いながら目を上げると、儚げな微笑を浮かべる青年が自分と握手して、こくりとうなずいた。伊藤さんも悲しみ混じりの笑みを浮かべ、青年と同じ動作をした。
 それから寺田先生は、赤ん坊だった自分が洗礼を受けたとき、確かにそばに居た青年を目の前に見た。青年は優しい顔で「霊的な息子」の頭をそっと両手で抱え、額をコツンと合わせた。その瞬間、寺田先生の胸に懐かしさとうれしさが押し寄せてきて、涙があふれた。
 そのあと濱内は、誰かが自分の両肩に触れたような感じがした。見ると、あのときピアノを奏でた青年が、濱内の両肩に手を乗せて、慰めるような顔で見つめている。濱内は右肩に乗っている手に自分の左手を重ね、両目を潤ませた。
 最後に、亜美は両手に温もりを感じた。まさかと思って目を上げると、若きピアニストが彼女の両手を持ち、自分は幸せだと言わんばかりの表情を浮かべ、その両眼から涙をこぼした。それを見た亜美の胸と涙腺の温度は急激に上がり、顔が崩れそうになるほど涙した。


 こうして、「朽ちた聖域」での50年の孤独から解放された秀仁さんの魂は淡い光の中、「真の聖域」へ向かったのだった。