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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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朽ちた聖域 Ⅳ真の聖域へ

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 翌日、寺田先生は自身の洗礼式の写真を持ってきてくれた。その隅には、「1975.08.15」と書かれている。亜美と濱内はそれを見て、目を見開いて息をのんだ。
 何と、あのとき廃教会でピアノを弾いた青年の微笑みと、写真の中で幼子を抱いている青年の表情が、不思議なほど一致しているのだ。
「う、うそ…。濱内さん、この人…!」
「あぁ、間違いない」
 廃教会に現れた青年とおぼしき人物と、自分たちの指導教員のつながりを知り、彼らに衝撃が走った。
「この人、先生のお父様ですか…?」
「いや、この人は父親じゃない。誰だろうこの人…」
 先生の答えを聞いて、亜美が控えめに尋ねた。
「もしかして、代父さんじゃないですか?」
「…ダイフさん?」
 聞き慣れない言葉に首をかしげる濱内に、亜美が説明をした。
「『代父』っていうのは、洗礼のときに立ち合って、洗礼を受けた人の信仰を、親のように支える人のことです」
「要はもう一人の親といったところか」
 二人か話し終えると、先生がぽつりとつぶやいた。
「この人が代父さんか…。何だか初めて顔を見た気がする……」

 亜美はまだ信じられない、と言いそうな顔で尋ねた。
「先生、洗礼式のあと、代父さんに会ったことはありますか」
「いや、それが、教会でもほかの所でも、この人には会った記憶がないんだ…」
(やっぱり、そうなのね)
 このとき、二人の中で何かがつながり、もう一度、互いを見つめた。
 それでも濱内はせき払いをして、神妙な顔で話し出した。
「……先生、これはうわさなので信ぴょう性は高くないんですが、先生が洗礼を受けた同じ年に、その教会で壁が崩落する事故が起こり…」
 彼らはその続きを言えなかった。言えやしなかった。
「いや、まさかその事故に遭ったのが、僕の代父さんかもしれないと?」
「……はい」
 聞こえるか聞こえないかの大きさの声で、亜美は答えた。

「それと先生、その人に大きく関係するものが例の教会で発見されまして、今、警察が調査中です」
 「警察が調査中」というワードを聞いて、寺田先生は大体の察しがついた。


 それから約1カ月後、寺田先生は洗礼証明書の写しと洗礼式の写真を携えて、市役所のある部署へ向かった。しかし、DNA鑑定が実質的に不可能であったこと、生前の情報が乏しいこと、宗教的な関係では「縁故者」として認められないことから、「青年」を引き取ることはできないことが分かった。

 しかし別の日、彼は亜美たちに、自分の代父の名前は、「原秀仁(はら しゅうじ)」であると話してくれた。彼女はその青年が寺田先生の代父である可能性が高いこと、それを伊藤さんにも伝えてほしいという旨のショートメッセージを、杉内先輩に送った。それを見たことが彼に霊感を与えたのか、彼は一層の情熱を入れて演奏するようになった。
 それは亜美と濱内も同じだった。秀仁さんが近くに居るような気がして、メロディーにより情感を込めて演奏することが増えた。壁の中に居たのが秀仁さんという確実な証拠は出ていないが、あの日に朽ちた聖域に集った面々は、あれは秀仁さんだと信じて疑わなかった。