笑みの中の恐怖
その時発見された渡辺の死体であるが、それまで捜索しても、発見できなかった奥さんの遺体がそばにあったのだ。
それを見た時、渡辺ぼ遺書はなかったが、奥さんの遺体がそば日あったことで、
「遺書なんか必要ない」
と、事件の真相を知った刑事は皆そう感じたことだろう。
「それにしても、あの渡辺の表情。あれも、遺書に匹敵する」
と、桜井警部補に言わしめたのだが、そこには、
「何かをやりつくした」
という笑顔なのか、それとも、
「死ぬことは怖くない」
と言いたいのか、
「見たこともないような、満面の笑みの中に、恐ろしい断末魔の表情を浮かべた」
という恐怖があったのだ。
あくまでも、
「恐怖の仲の笑み」
ということではなく
「笑みの中の恐怖」
ということであったのが、印象的だったのだ……。
( 完 )
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