カメハメハ王朝の開国と滅亡
白煙と黒煙が渦を巻いた。それはオレンジ色の炎に変わり夜空を焦がした。その火勢は群衆の祈りを飲み込み、天に届けた。その問いかけは熱く、かつ切実であった。また苦渋の決断であったことも確かであるが、理性を否定して国の進路を神に頼る愚考でもあった。
マイケルとニシムラは死に臨んで、ハワイの人民に対する切実な心情を表した。
「神よ、再び無明に陥ろうとしている哀れな民を救いたまえ!」
「北里先生! なにとぞハワイの民をお助け下さい! 医は仁也! 心頭滅却すれば火もまた涼し! かあーつ!」
叫びと静寂が交錯する中、塔は無情にそびえ立ち、運命の象徴としてその場の空気を支配していた。フラの踊りはなまめかしく続いていた。ハワイ語の哀歌とウクレレがいつまでも響いていた。
<注>この物語はフィクションです。例えば「国母様」はカアフマヌとエマという実在の王妃をモデルにしていますが、実在していないキャラクターです。伝来したキリスト教も最初はカトリックで次がプロテスタントで、カメハメハ四世と五世はこれをイギリス国教に変えようとしていて実際はもっと複雑です。
<注>母音を区切るハワイ語の性質のため、HAWAIIはハワイイと発音します。
<注>コナの博物館では、カメハメハ一世の槍を見ることができます。5mくらいあり、穂先は無く、先端をとがらせてあります。壮年期のカメハメハ大王の肖像を見ると僧帽筋が大きく隆起していました。戦国時代の長槍の名手、前田利家も僧帽筋がこぶのように発達していたとのことで共通点を感じます。カメハメハ一世は日本の戦国時代と明治維新を合わせたような歴史的クリティカルポイントを勇敢に生きた魅力的な人物です。博物館の肖像画と解説でしびれました。
<注>王のマントは赤いイイウイ、黄色いマモという鳥の羽毛を丹念に植えることで作られます。イイウイは今も山奥に入るとなんとか見ることができますが、マモは絶滅しました。王家の衣装のための乱獲が原因です。
<注>1989年発刊のフランシス・フクヤマ「歴史の終焉」ではヘーゲル的歴史観の終わりが語られていますが、その時点ではトランプ大統領みたいな人が現れるとは誰も思っていなかったのです。ハワイ州は民主党の票田ですが、ハワイ島はトランプが観光産業の半分くらいを占有していて土産物店はトランプグッズだらけです。
<注>カイウラニ王女は、混血でまさに才色兼備の方でした。ハワイ王国の誇りと悲劇の象徴として映画にもなりました。
<参考文献>
イザベラ・バードのハワイ紀行 イザベラ・バード (著), 近藤 純夫 (翻訳) 2005平凡社
ウィリアム・N. アームストロング カラカウア王のニッポン仰天旅行記 1995 小学館
ジョン タナカ ハワイ王国物語 2007 JTBパブリッシング
作品名:カメハメハ王朝の開国と滅亡 作家名:花序C夢