悠々日和キャンピングカーの旅:⑭西日本の旅(山陰(後編))
■11/10(旅の9日目):岡山県真庭市 ⇒ 島根県松江市(道の駅「本庄」)
【この日の旅のあらまし】 車中泊した「八束(やつか)自然牧場公園」から蒜山(ひるぜん)大山スカイラインの「鬼女台(きめんだい)展望休憩所」、大山中腹の大山環状道路の「鍵掛(かぎかけ)峠」を経て、「大山ナチュラルパークセンター」に到着。そこから見えた「弓ヶ浜」の付け根にある「皆生(かいけ)温泉」では足湯に浸かり、境水道(さかいすいどう)を渡り、美保関(みほのせき)の「三保神社」、「美保関灯台」を見てからは、中海(なかうみ)に面した道の駅「本庄」で車中泊。【走行距離:119km】
【忘れられない出来事】 車中泊した自然牧場公園で、朝日が当たる紅葉に包まれた「ジル」が美しく、写真を撮ったこと。
【旅の内容】 昨夜は疲れを覚えたため早めに就寝したが、深夜にトイレに行きたくなり、目が覚めた。
パジャマの上に、マルチルームに提げているベンチコートを羽織り、エントランスから外に出た瞬間、漆黒の闇と夜気に驚いた。「ジル」から一旦離れるならば、もう戻って来られないのではないかと感じたほどで、念のため、エントランスの斜め上の外灯のスイッチを入れた。
夜空を見上げると、木々の間から星がくっきりと見えた。視線を下ろして、じっくりと周囲を見ていると暗さに目が慣れてきて、わずかばかりだが、「ジル」の周辺が見えてきた。
「ジル」に戻り、ダイネットに入った時、その暖かさに安堵し、バンクベッドの温もりが残る布団に入ると直ぐに寝てしまったようで、6時半に目が覚めた。静かな夜だったこともあり、熟睡していた。
バンクベッドからダイネットに下りてから、テーブルの窓側に置いた時計の温度計が5度を表示していたが、体が暖かいうちにパジャマからデニムとトレーナーに着替えた。
エントランスのカーテンを外して、車外に出たところ、体がシャキッとするほどの冷たさだったが、朝陽が当たっている紅葉した木々は美しく、何枚も何枚も写真を撮ってしまった。その中の「紅葉とジル」の写真が気に入り、暫くの間、私のPC(パソコン)のデスクトップの背景に設定していた。
後日、これまでの「キャンピングカーの旅」で撮った多くの写真から、1次、2次、3次と選考を進め、お気に入りの写真を20枚ほどに絞り込み、A3サイズのフォトケースに入れて、写真展を開催した。その20枚の中に、この「蒜山高原の紅葉に包まれたキャンピングカー」のタイトルの写真が含まれていた。
朝食の準備を始めようと、先ずはドリップコーヒーを淹れて、それを飲みながら、バナナをひと口、そしてふた口目を食べ始めた時、TVの天気予報は、朝方は晴れるが、それ以降は天気が崩れる内容だった。
一般的には、山は予報より早めに雲が掛ってしまうため、ここで今、ゆっくりと作りながら食べ始めた朝食を中断して、先ずは大山が見える場所に移動することにした。
「八束自然牧場公園」から、その南側を走っている「蒜山大山スカイライン(県道)」に出ると、路面が濡れていた。夜中に起きた時は星が見えていたので、その後に雨が降って、明け方には止んだのだろう。
このスカイラインは、中央分水嶺でもある蒜山三座と呼ばれる上蒜山、中蒜山、下蒜山の南麓の高原の道で、そこを西に向かって走り始めた。
左側には別荘のような佇まいの幾つかの家が見え、右側は木々の間から時折、牧場越しに上蒜山と中蒜山が見えた。道路際にパーキングがあったので、そこに「ジル」を停めて、蒜山の風景をじっくりと眺めると、なだらかな山容全体が紅葉に覆われ、その中腹の所々に薄い雲が掛っていた。これぞ高原の朝の風景なのだろうと思いながら、麓に広がる牧場を見渡すと、残念ながら、ジャージー牛の姿は見えなかった。
「蒜山大山スカイライン」を走りながら、大山の南東側の麓から尾根に近付くに連れ、道の周囲の木々は美しい紅葉のトンネルを作り、100%の秋を堪能できた。
その先に「鬼女台(きめんだい)展望休憩所」の案内標識が見えた。そこからは大山を展望でき、且つ中央分水嶺でもあるので、立ち寄った。
外に出ると、強くて冷たい風が吹いていて、一気に季節が進み、冬になった感じがするほどで、「ジル」に戻り、ベンチコートを着てから、もう一度外に出て、山側を眺めた。手前のピラミダルな山容を持つ烏ヶ山(からすがせん)までは見えたが、その先は雲に覆われ、見たかった屏風型の岩肌がそそり立つ荒々しい大山の山容は、残念ながら見ることはできなかった。
大山と言えば、別名「伯耆富士(ほうきふじ)」とも呼ばれる山容で有名だが、別の方角から見える荒々しい姿は、同じ山とは思えないほどで、二面性のある山だ。
駐車場内にいた若い女性が同じ方向を眺めていたので、「大山は見えないですよね」と声を掛け、道の駅で入手した眺望図を見ながら話している内に、彼女は烏ヶ山を大山だと思い込んでいたので、眺望図を使って、その誤解を解いてあげた。
彼女との会話の中で聞いたのは、聞き慣れないイントネーションとアクセント、それに幾つかの方言で、あの広島出身の3人組テクノポップユニットのPerfumeを思い出した。そういえば、彼女のクルマは広島ナンバーだった。
全国を回っていると、風光明媚な景色やその土地の旨いものに出会うが、その土地の人との会話から生の方言に出会うこともでき、それも旅の醍醐味だ。
雲が引いて、大山の山容が見えるのかどうかは分からないが、いずれにせよ、かなりの時間が掛かりそうなので、中断していた朝食の準備を再開することにした。
「大山が見えるまでは時間が掛かりそうなので、コーヒーでもどうですか」と彼女を誘うも、「コーヒーは飲めない」とのことで・・・、体よく断られたのか、彼女はクルマに戻って行った。
ちょっと甘めのホットサンドを食べたくなった私は、先ずはホットサンドメーカーで卵焼きを作り、その上に食パンを載せ、ひっくり返して、卵焼きの上にチーズとジャム、そしてもう1枚の食パンを載せて、外側にはマヨネーズを塗って、こんがりと焼き、コンソメスープを飲みながら食べた。
その間、窓から見える大山に掛った雲は流れず、居座ったままだった。
これ以上待っても大山を見ることはできないと思い始めた頃、先ほどの彼女が、「今から鍵掛峠(かぎかけとうげ)に向かいます」と挨拶され、「あとで私も、そちらの方に向かう予定です」と応えた。
「蒜山大山スカイライン」から大山中腹の樹海を走る「大山環状道路」に入った。これまで以上に深い森に入ったようで、紅葉レベルは更にアップした。
山の中腹らしく、交互に繰り返す尾根部分と谷部分を多少の上下を伴いながら、くねくねとした道を走っていると、そんなに広くない駐車場に停まった数台のクルマが見えた。雲が近くなっていて、殆ど展望がなかったため通過した。
その先で、先ほどの彼女が、路肩のちょっとしたスペースに車を停めて紅葉の写真を撮っていたので声を掛けると、「鍵掛峠では大山は見えなかったけれど、その手前で、見事な紅葉の写真を撮った」と教えてくれた。