悠々日和キャンピングカーの旅:⑭西日本の旅(山陰(後編))
この会話から、既に私は「鍵掛峠」を通過したことが分かり、先ほどの数台のクルマが停まっていた場所がそこだと思い、彼女を見送ってからUターンして、そこまで戻り、駐車場に「ジル」を停めた。
雲の中で、大山の方向だと思える方向を探したが、山は全く見えず。先ほどの「鬼女台」よりも大山に近い分、しっかりと見れば見えるのではないかと思ったが、その期待を打ち消すように、雲はさらに深くなっていった。
そこには、私と同じようにがっかりしているような夫婦がいて、共通した残念さからか、自然と会話が始まった。
その最中に、やって来たひとりの男性がクルマから取り出したのは、TV局の人が持つような大きくて高価そうなテレビカメラで、周囲の紅葉しか見えない「鍵掛峠」の今の状況が分かり、私らと同じようにがっかりしているようだった。
「鍵掛峠」を後にして、「大山ナチュラルパークセンター」のある大山の観光や登山の中心地に向かって、再び「大山環状道路」を走り始めた。
この道の制限時速は時速30km、その速度の正しさが理解できるような曲がりくねった勾配のある上り下りが続く道で、下りではブレーキを多用せず、A/Dからシフトダウンして、エンジンブレーキを利かせながらの厳しい運転になった。
この道の路面に広がっている濡れた枯れ葉は、「ジル」の運転には問題はなさそうだが、バイクのライダーにとっては怖い存在だと、私の長いバイクライフからそう直感した。
やがて、「大山ナチュラルパークセンター」に到着し、そこで大山に関するパンフレットを入手した。この2階から米子方面を見渡すと、美保湾に面した「弓ヶ浜」、その奥には「島根半島」の展望が開けてはいたものの、その写真を撮るとなるとセンターの横の立木が邪魔になる。無ければいいのにと思いながらも、ズームを駆使したアングルで、木々が写り込まないように数枚の写真を撮った。
「ジル」に戻り、山の方に向けて駐車していたので、フロントガラス越しに大山の山容が雲間から顔を出さないかと待っていたが、ここでも、厚い雲に覆われたままだった。
大山の最高点は1,729mの剣ヶ峰だ。しかし、そこに至る縦走路は崩壊して危険なため閉鎖されており、現在登山できる頂上は第二峰の弥山(みせん、1,709 m)だ。
雲間から大山の山容が見えたとしても、私には、剣ヶ峰なのか弥山なのかは分からないが、それでもひと目でいいから見たい心境だったが諦めて、米子(よなご)方面に下山することにした。
なお、道を挟んだ反対側にある「大山自然歴史館」には立ち寄らず、「大山寺(だいせんじ)」にも参拝しなかったが、それは忘れた訳ではなく、再び、この地を訪れるために、それまでキープすることにした。
最短距離のルートで米子に向かうことにした。この道は大山道(だいせんみち)のひとつの「尾高道(おだかみち)」で、最もなだらかな道だというのだが、エンジンブレーキを多用しながら下って行くことになった。
大山道とは、古くから人々の信仰を集めた山腹にある大山寺を中心に、四方に発達した「坊領(ぼうりょう)道」、「尾高道」、「溝口道」、「横手道」、「川床(かわとこ)道」の五つの参詣道の総称だ。次回は今回の「小高道」とは違うルートで上って下りたいものだ。
標高750mあたりから一気に下って、弓ヶ浜半島の付け根あたりの海沿いの皆生温泉(かいけおんせん)に到着。大きなホテルが立ち並ぶ温泉街は山陰最大級で、年間40万人ほどが利用する温泉地だ。
初めて来た温泉地のため、「ジル」で走りながら、その規模や雰囲気を確認したところ、私好みの湯けむりが立ち昇るような鄙びた温泉地ではなく、走りながら思い出したのは能登半島の和倉温泉で、大型ホテルを含む宿泊施設が集積する温泉地だった。
走りながら「足湯」を探したところ、モダンな雰囲気の「潮風の足湯」を見付けた。近くの駐車場に「ジル」を停めて、タオルを1枚持って、開いている場所に座り、足を湯に浸けた。
じんじんと温泉の熱さが伝わってきた。それは、先ほどまでの低い気温で足が冷えていたことと、熱い温泉の注ぎ口の近い場所だったためだった。
足を浸けている数人の老人がいて、「こんにちは」と挨拶をしながら「熱いですね」と話を続けたところ、隣の老人が、もう上がるのでこちらに座ってくださいと、湯温が少し低い場所を譲ってくれた。足を見ると既に真っ赤になっていた。それでも慣れてきたようで、暫く浸かった後は、足の疲れが取れたのか、軽さを感じた。いい湯だった。できれば、もう少し、老人たちとの会話を楽しみたかった。
足を湯に浸けながら周囲を見渡して分かったのは、ここは、美保湾に対して縦に細長い「皆生海浜公園」の中の「足湯」で、海に向かって、水遊びができそうな浅い水路が延びていた。11月の今、そこで遊ぶ子供たちの姿はなく、静かな公園だった。足湯の後は、水路の先の砂浜に行ってみた。
海越しに大山の姿を探したが、正面にはなく、目を右にずらしてゆくと、弓ヶ浜の海岸線を右に延長した先よりまだ右側にあるようで、晴れていても、ホテルの建物で隠れて見えない方向だった。
砂浜から目の前に広がる美保湾の左側は島根半島の東端で、そこに白い灯台が見えた。
「ジル」に戻り、湯を沸かしてカップ麺に注ぎ、3分待ちながら、魚肉ソーセージと箸も持って、美保湾を眺められる場所まで行って、食べ始めた。
正面の美保湾の水平線に近い高さに、はっきりと見える立派な虹が掛かっていることに気付いた。こちらは雨が降っていなかったので、湾の沖あたりで雨が降っているのだろう。
昼食後、さらに鮮やかに見え始めた虹の写真を撮っていると、ウォーキングしていた男性が近付いてきたので、虹が出ていることを教えたところ、今日は朝から何回も虹が出ているとのことで、今出ている虹は全体が良く見えてベストだと、逆に教えてくれた。サンクス。
その後、雨雲が海浜公園に近付いたのか、小雨が降ってきた。
今から、弓ヶ浜を北上して境水道を渡って、島根半島の東端の「三保関(みほのせき)灯台」に向かうことにした。
ナビの案内に従って、美保湾沿いの産業道路(R431)を北上したものの、沿岸の松林で美保湾が見えなかった。その時、前方に「弓ヶ浜展望駐車場」の案内標識があり、その信号から海側に入った。
「ジル」を停めてから砂浜に出た。ここは「日本の渚百選」と「日本の白砂青松百選」に選定されているようで、さすが瓦礫やゴミが打ち上げられていない美しい砂浜だった。
風向き次第だがここで、パラモーターでテイクオフできるならば、眼下に気持ちの良い景色が広がっていることだろう。いつかは飛んでみたい場所だ。
再び産業道路を北上し、三保湾から中海(島根県松江市・安来市と鳥取県境港市・米子市にまたがる汽水湖)に繋がる境水道に架かった境水道大橋で島根半島に渡った。橋の高さは海面から40mもあり、大型船舶も余裕を持って桁下空間を通過できそうだ。そういえば、弓ヶ浜半島の水道に面している側はどこでも船が接岸できそうな岸壁が続いていて、多分、大きなクルーズ船も寄港するのだろう。