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静岡のとみちゃん
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悠々日和キャンピングカーの旅:⑭西日本の旅(山陰(後編))

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 駅舎に戻った際も、コーヒーの香りが漂っていた。ここの駅員は、駅独特な臭いではなく、一日中、色々なコーヒーの香りを楽しんでいるのだろう。

 道の駅に引き返すことにした。昨日、ここに到着した時は、駅舎内のショップの営業時間が終わっていたので、入れなかったためだ。
 そのショップ内を見て回ると、気になったのは「鹿の肉の大和煮」で、少し高い値段だったが、鹿肉が好きなため、その缶詰を買ってしまった。このショップは広くはなかったが、色々と興味のある商品が並んでいた。

 この紀行文の執筆の際に新たに知ったことは、道の駅の敷地内に「さくらオートバイ神社」が開設されていたことだ。開設日は、この旅の2年半後の2024年4月20日とのこと。
 「一般社団法人 日本二輪車文化協会」が推進しているようで、「オートバイ文化の推進と確立」を目的とし、「一企業や業界内の損得を優先せず、ユーザーとオートバイマーケットの環境改善を最優先し行動する」ことを基本方針としているようで、宗教的な目的はなく、ツーリング拠点として、地域活性化にも貢献することを目指し、ツーリングライダーのランドマークとして、今後各都道府県に1箇所以上設立を推進する計画があるという。2025年8月現在、全国に23ヶ所あるとのことだが、「さくらオートバイ神社」は第29号なので、既に廃れた神社があるのかもしれない。

 道の駅からR29を鳥取方面に戻り、途中から若桜鉄道の「隼駅(はやぶさえき)」を訪れた。
 その駅舎を見た時の印象は、いわゆる地方のちっぽけな駅で、建てられてから何ひとつ変化していない駅は幾つもあるのかもしれないが、それがしっかりと手入れされていて、稀有な駅という感じを受けた。
 駅舎の前には、円筒状の赤い郵便ポスト、いわゆる丸ポストがポツンと立っていた。この佇まいはそのまま昭和の雰囲気のようで、その情景から、駅舎の入口から見える改札口の奥にはC12が牽引する客車が見えるような鉄道模型のNゲージのジオラマが頭に浮かんだ。
 ちょっと調べたところ、この駅舎は2008年に国の登録有形文化財に登録され、2015年には、「隼駅」の昭和の景観に合わせて、駅前に丸型郵便ポストが設置されたとのことだった。

 駅舎の左手の奥の方に駐車スペースがあり、そこに「ジル」を停めた。
 その横には、元北陸鉄道の電気機関車ED301と客車(オロ12)が保管されていて、その客車は簡易宿泊所「ライダーハウス」になっていた。
 電気機関車や客車と「ジル」が並んだ写真を撮ってから、駅舎に向かうと、木製の引き戸の入口の左右の外壁には、バイクの「ハヤブサ」のポスターが貼られ、駅の待合室には、ラッピングされた若桜鉄道のディーゼルカーと並走する何台ものハヤブサの写真が飾られていて、その構図が気に入り、写真を撮った。
 思ったとおり、この「隼駅」は「ハヤブサ」の聖地だ。そうなると、さきほど頭に浮かんだジオラマの駅舎の前に、バイクの「ハヤブサ」を2台ほど並べてしまった。

 駅舎の中のあちらこちらを見ていると、ひとりのお婆さんが駅舎に入ってきた。
 バイクがこの駅に集まるようですね、と声を掛けると、土日は多いねと応えてくれ、さらに、駅舎内にはグッズを売っているショップがあり、土日に限定して営業していることも教えてくれた。
 
 この紀行文を書いている2025年に、ネットで「隼駅」について調べたところ、「隼駅まつり2024」では、参加者が2,700人を超えたとの情報が検索され、さらに、おびただしい台数のハヤブサの写真もあり、大いに驚いた。
 2008年8月6日発売号のバイク専門誌「月刊ミスターバイク」にて、「8月8日はハヤブサの日」と銘打ち、スズキの大型バイク「GSX1300Rハヤブサ」のオーナーに、「隼駅に集まろう」と呼びかけたのがきっかけで、2日後の8日に、7台の「ハヤブサ」が集結したのが全てのはじまりで、翌2009年には500台、10年目の2018年には2,000台もの「ハヤブサ」が大集結、年数を重ねる度に参加者が増えていったようだ。
 バイクのオーナーに、これほど愛される「ハヤブサ」は幸せなのだろう。

 この山間の町の若桜に来たもうひとつの理由は「やずミニSL博物館」を訪問するためで、「隼駅」からはさほど遠くない場所にあった。そこは、船岡竹林公園内にある1/8.4のスケールで、軌間(ゲージ)89mmのミニSLが18車両常時展示され、乗って楽しめる全国初のミニSL博物館だ。
 展示されているSLの内、日本のSLは、C11、C12、D51、9600(キューロク)、8620(ハチロク)の5種類7車両、それ以外は海外のSLだった。
 その展示方法は、転車台を中央に配置し、そこから放射状に延びるそれぞれのレールの上にSLが置かれていて、なかなか憎い趣向の展示の仕方が面白く、さらには、SLの精密さに驚き、且つどれも実際に動くライブスチームであることにさらに驚き、暫くの間、じっくりと見て回った。
 特に、9600とC11は「撮り鉄」だった中学生の頃に撮ったSLで、実家から自転車で足繁く通った福岡県の田川線(現:平成筑豊鉄道田川線)のことを思い出した。
 見学後は、館長の山根さんとSLの思い出話に花が咲き、楽しい会話が続いた。
 最後に、十年以上前に執筆した静岡県内の「駿遠線(すんえんせん)復活物語」の話をさせて頂いた。それは、廃線になった「軽便鉄道」が、先ずは地域住民の協力で線路が敷設され、県内の大学や企業が開発したハイブリッドの軽便機関車が走る内容で、次第に町おこしにつながり、最後は住民税がなくなるというハッピーストーリーで、それを後日、メールで送付する約束をした。

 「やずミニSL博物館」から西に向かうには、鳥取市内に戻り、日本海沿いの幹線道路R9を走るルートが正解だと思ったものの、博物館から真西へ向かう山間にはR482があり、中央分水嶺でもある鳥取県と岡山県の県境を二度も超える国道で、そこにはウラン鉱石を採掘できた人形峠があり、その先の蒜山高原(ひるぜんこうげん)にたどり着くことから、R482を選択した。

 「行き当たりばったりの旅」いや「悠々日和(きままな)旅」をしている私だが、これまでの旅では、判断が必要な場合は慎重に関係する情報を集め、総合的に正しい判断をしてきたつもりだ。
 たとえば、山間の400番台の国道は、バイクならば迷わず先に進んでしまうのだが、全長5m、車幅2m、車高3m超の「ジル」の場合は、判断する際の閾値が変わるため、本来ならば、このR482は選択しないはずだ。
 しかしながら、丹後半島の海岸線を回った際の国道R178はR482と重複していたことで不安レベルが少しばかり下がり、加えて、人形峠に続く道のため、多少広い道幅だろうと勝手に期待し、その先には以前から行きたいと思っていた蒜山高原に続いていることが背中を押して、少々の不安があるものの、まあ引き返すようなことはないだろうと考えた次第だ。
 多分、正常性バイパスが効いているのかもしれないが、このような思考回路に陥ってしまった際は、期待と不安が半々だ。わくわくしながら先に進むのは面白い。