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静岡のとみちゃん
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悠々日和キャンピングカーの旅:⑭西日本の旅(山陰(後編))

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 草原の端で暫くの間、高原の空気を味わいながら眺めていた三瓶山は、紅葉はもう終盤のようで、赤やオレンジ色の鮮やかさはなく、茶色がかっていた。それでも背伸びをしながら深呼吸をすると、体の中の酸素が濃くなるような気がした。屈伸をすると、第2の心臓と言われるふくらはぎからも鼓動が聞こえてくるようで、ホントに気持ちの良い高原だった。
 そして、夏や秋真っ盛りの頃に、もう一度、この「西の原」に戻って来ることに決めた。

 三瓶山は活火山で、室の内(むろのうち)とよばれる直径約1.2kmの火口を取り囲むように、男三瓶山(標高1,126m)をはじめとする6つの峰が並んでいる。
 今、目の前に見えているのは、北側には男三瓶山、南側には子三瓶山だ。そして、ここまで走って来た道は「三瓶アイリスライン」と呼ばれる観光道路で、三瓶山のだらかな麓をぐるっと周回していた。
 そうなると、三瓶山家族全員を見たくなってしまい、それほど大きな山塊でもないため、一周回ることにした。
 先ずは、最も北側に見える男三瓶山の麓をぐるりと回り、山塊の東側に出て、南下すると女三瓶山が見え始めた。そこには、リフトに乗れそうな場所があったが、遠目には動いていないように見えたため寄らず、「西の原」をもう一度走り、「石見銀山」に向かった。

 石見銀山へは、次から次に出てくる案内標識に従って進んで行った。
 到着した場所は「石見銀山世界遺産センター」で、そこでの見学から、誰がどうやって銀鉱石を探し当てたのか、精錬方法は、戦国武将による銀山争奪のための戦、その最後は豊臣そして徳川の直轄地になった歴史の概略を学んだ。当時、絶対的な権力を持っている人は自分のために都合よく富を手に入れることができた時代だったと再認識した。そして、銀山で栄えた山間の町の大森地区に向かった。

 石見銀山公園の駐車場に「ジル」を停めた頃は既に午後5時を回っていて、駐車場はガランとしており、おみやげ処の営業は終わっていた。
 それでも、大森地区の街並みを見るために散策を始めたものの、観光客や地元の人の人影すら目にすることはなく、当時の面影を今も残している武家屋敷や代官所跡、銀で栄えた豪商の熊谷家住居などの歴史的な建造物の扉は閉まっており、寂しい佇まいにポツンと私ひとりの状況だった。加えて、急に空気が冷えてきたことを感じたので、散策を切り上げた。
 このまま、この駐車場で車中泊をしようかと思ったが、あまりにも寂しい雰囲気に負けてしまい、日本海側に向かうことにした。
 ここには、銀山資料館、銀山遺跡、精錬所跡、間歩(まぶ:銀鉱石を採掘するために掘られた坑道)などの伝統的重要建造物群があり、それらをじっくりと見たくなり、次回の山陰の旅の際に、再び、ここを訪れることに決めた。

 県道を走って、ほど近い場所にある道の駅「ごいせ仁摩(島根県太田市)」に向かった。今夜の車中泊場所だ。
 山陰道の仁万(にま)・石見銀山ICの少し先にあるはずなのだが、道の駅の案内表示が出てこない。ひょっとして、県道沿いでなく、日本海沿いに走る9号沿いかもしれないと思い、コンビニで訊いたところ、道の駅はまだ建設中とのこと。
 さてどうしたものかと思い、ネットで道の駅の検索をしたところ、R9を西進したところにあることが分かった。しかし、既に日が暮れ掛かっているため、そこまでの道中の景色を見られなくなることが無性に残念に感じ、R9を東進することにした。そうすれば、明朝、その道の周りの景色を眺めながら西進できるからだ。

 目指した道の駅「ロード銀山(島根県太田市)」が見えてきた頃はとっぷりと日が暮れていた。
 駐車場に「ジル」を停めてから、駅舎の方を見たところ、入口あたりが既に暗くなっており、残念ながら、この日の営業は終わったようだ。
 この駐車場は、国道を走るクルマの騒音が駅舎で遮蔽されていて、静かな夜を迎えられそうで、車中泊をしようかと思い、駐車場内の24時間使用できるトイレを確認したところ、シャワー便座はなく、和式便座があり、少し薄暗いのも手伝い、ここは一世代前の古いトイレのようで、私の好みと違い、車中泊を諦めた。

 R9を西に向かうところをわざわざ東に向かって、たどり着いた道の駅での車中泊を諦めるとは、少しばかり自分に対し腹立たしさえを覚えた。この時の私は「彷徨う(さまよう)ジプシー」のような心境になっていたのかもしれない。そしてもう一度、ネットで道の駅を検索したところ、更に東に10km以上も走ることになるが、道の駅「キララ多伎(たき)(島根県出雲市)」があった。
 その特徴ある駅舎の外観の写真から、ひょっとしてそこは、以前のバイクツーリングの際に立ち寄ったことのある場所ではないかと。これまで、全く思い出すことはなかったのだが、写真を見るや否や、記憶のデータベースから、その時の記憶の断片が頭の中に浮かんできたことに驚き、その不思議さを嬉しく思った。
 それは、海岸段丘の上に建つこの駅舎の東側には大きな風力発電機があり、その横でパラグライダーが海風を受けて飛んでいる光景だった。

 そこに向かう間の夜のR9は、人家の少ない山間や海岸沿いの道だったが、メルヘンチックな駅舎とパラグライダーが飛んでいた海岸段丘の風景に再会できることに期待しながら運転していると、10km超の距離が短く感じられた。そして、その外観の道の駅「キララ多伎」が見えた時は、セカンドライフの私でも心が躍るような気持になった。
 駐車場に入り、いつものように、道の駅で車中泊する際の駐車スポット選定のための3条件に従って、長距離トラックの駐車エリアから離れた場所で、幹線道路からも離れて、トイレにはほど近い場所を探して、「ジル」を停めた。そしてすぐ、明るいトイレに行くと、新しく、美しく、清潔な感じの最高レベルで、ここまで来て、大正解だと自分を褒めた。

 かなりの空腹を感じていたので、早速、夕食の準備に取り掛かった。
 昨夜は「つみれ鍋」だったが、その食材を購入した際に買った「おでん」が今日の夕食だ。袋に入っている「おでん」を鍋に移して温めるだけだが、ちょっと手を加えることで、何かできそうな気がしてきたが、日没後の運転で多少疲れていたので何もせず、冷蔵庫から出したチューブ入りの味噌を付けて、食べることにした。おでんの量が多かったため、米飯は不要で、おでんだけの夕食だったが満足した。
 食後のデザートは梨で、ナイフで皮をむいて、コーヒーを飲みながら、秋の山陰の味を楽しんだ。

 就寝前にトイレに行ったついでに、駅舎の裏に回り、海岸段丘の上から見える暗い日本海を眺めた。目が慣れるにつれ、沖合の光は航海しているコンテナ船の灯りだと分かり、段丘の下の砂浜もおおよそ見えてきた。ここが気に入った。

【今日の一言】 車中泊予定の道の駅が建設中で、別の道の駅に行ったものの、そこは私の好みに合わず、ダブルパンチ。とっぷりと日は暮れて、落胆した頭に浮かんだのは「彷徨うジプシー」。最後にたどり着いた道の駅の駅舎はメルヘンチックで、マイナスな気持ちがプラスを越えてハイテンションに変わった。