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ミユキヴァンパイア マゲーロ4

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 「わかった、事故死に見えるようにして殺しちゃってもいいや」
 「なにそれ。軽く言ってるけどあんたの独断でそんなこと言えないでしょうが!」
 即座にMがツっ込んだ。マゲーロは雨に打たれた紙風船みたいにしぼんで下を向いた。
 私もそう思う。それもっとハードル高くないの?だいたい殺すとか嫌でしょう。それにMがどんなに優秀でもしょせん小学生の体よね。大人相手に無理じゃないの?
 「ちょっとマゲーロ、バカ言わないで。私殺人犯になりたくないわよ。ていうかいくらMでも返り討ちに会うのが関の山って気がするんだけど」
 必死に訴えた。この案は絶対却下よ。
 「そうよ、そう簡単に殺せるとは思えないな」
 Mも言った。
 「うーん」何も思いつかないらしいマゲーロはうなりつづけている。

 「ああそうか、ミラが消えるとややこしいことになるけど、逆に私が居なくなっても本物のミユキがいるから大丈夫か」
 Mが妙なことを言い出した。
 「何言ってるのかわからないんだけど」私はMを見つめる。
マゲーロは蛇ににらまれたカエルのように固まっていた。
 「なんでもない、後で話すわ」Mは目をそらした。

 細かい打ち合わせはマゲーロも上司の指示を仰ぐことになりいったん解散することになった。
 「ミユキちゃん、この任務はかなりやばい案件なの。あなたが気をかけてくれるのは分かるけどくれぐれも深入りしないでよ。危険だから」
 マゲーロが向こうを向いた隙にMが耳もとでそっとささやいた。私の分身が言うんだから間違いはないだろう。肝に銘じます。
 


8章

 ミラの誤算はわたしを人間だと思っていたことに尽きる。私が人間なら吸血行為によって私を取り込み自分のエネルギーにできたかもしれない。ところがどっこい、私もミラと同種なのだから私を取り込んでももとはと言えば私も彼女も同じもの。生命力の強いほうが優位にたつだけ。というか同化してしまえる。お互いが混ざり合って共存した場合、どちらの人格が主たるものになるかは数限りなくコピーを繰り返して劣化した細胞より最新情報を持ち本部と直接つながっている方に決まっている。そういうことを200年近くシャングリラと関りを絶って生きてきたミラは知らない。

 商店街でミラに会った数日後、ミツエちゃんと一緒にミラの家を訪ねる機会が訪れた。私はミユキの母に頼んで手土産にパウンドケーキを焼いてもらった。それを持ってミツエと待ち合わせ、一緒に田中ミラの自宅を訪れた。
 ミラが住んでいるのは商店街から数分歩いた住宅街の5階建てのマンションの3階だった。
 ミツエがインターホンを押し、ミラが玄関に出迎えた。色白で堀の深い顔立ちは欧州人だが黒髪と立ち居振る舞いがどことなく日本人ぽい。アジア系の人間の血を吸ったことがあるのかもしれない。
 「お邪魔します」
 室内は冷房が効いていて心地よかった。
 ミツエと私は挨拶して靴を脱ぎ、私は手土産を渡す。
 「あら、ありがとう。ミユキちゃんのお母さまから?かえって申し訳ないわね」
 ミラはちょっと困ったような顔をしてから笑顔に戻り
 「お茶菓子にちょうどよかったわ。今切ってくるわね」とキッチンにはいった。
 「緑茶と紅茶とジュースとどっちがいい?コーヒーは苦いでしょ」
 「あたしジュースがいいです!外暑かったから喉乾いちゃって冷たいものが飲みたかったんだあ」ミツエが答える。
 「あ、私もそれで」ミユキは緑茶好みらしいが暑かったしミツエに合わせておく。
 「りょうかーい。そこで手を洗ったらそっちのソファに座ってて」
 ミラはキッチンに入り冷蔵庫を開けてオレンジジュースをとりだすとグラスに注ぐ。
 よくあるマンションの3LDKで、キッチンカウンターでリビングと仕切られている。

 リビングのテーブルには煎餅の入った菓子鉢がでていた。
 「へえ、先生お煎餅なんか食べるの?」
 「うん、日本に来て初めて食べたらけっこうはまっちゃって」
 「そうなんだ。おいしいでしょ、おせんべ」ミツエは「いっただきまーす。うん、おいしい」とさっそく煎餅をかじっている。
 ミラがジュースをいれたグラスをお盆からテーブルに置く。
 「喉乾いたでしょ。ケーキ切るから先に飲んでて」
 「はーい」
 ミラがお盆をもってキッチンにもどる間にミツエがグラスのジュースを一気飲みした。
 「ぷはあ、喉からからだったんだあ」ビールじゃあるまいし。
 「やだ、ミツエちゃんそんなに喉乾いてたの?」
 あっという間にグラスが空ではかっこ悪いだろうと思って私はだまって自分のジュースをミツエのグラスに半分ほど継ぎ足してやった。
 「ミユキちゃんありがと」
 「ん?どうしたの?ジュースならお替りあるわよ」
 ケーキを切り分けたミラがお盆にケーキと皿を載せて戻ってきた。
 私も飲もうと自分のグラスを手に取って口に持っていこうとした瞬間、頭の中でエージェントMとしての警告を感じた。迂闊だった。エージェントたる私にとって田中ミラは捕縛対象。ここで出されたものを信用していいはずがない。エージェントとして失格だ。ただ、ミツエに飲むなという暇はなかった。大丈夫だろうか。
 そのままグラスをテーブルに戻したが、幸いジュースは半分になっているので怪しまれることもないだろう。
 
 ミツエは煎餅をかじりながらケーキも食べている。
 「うん、このパウンドケーキもおいしい。ミユキちゃんのお母さんって上手なのね」
 自分用に紅茶をいれたミラも席に着いてケーキを口に運び
 「ほんとね。ケーキとってもおいしいわ。」
 「ありがとう。お母さんに伝えます。きっと喜ぶと思う」ここはまず愛想よく受け答え。
 そしてミラは煎餅も盛んにかじっていた。
 こんなに煎餅好きのイギリス人っているか?やっぱり日本人の血を吸ったんじゃないだろうか。そもそも来日して2,3か月にしてはいくら向こうで学んでいたにしても日本語が流暢すぎる。
 「先生、日本に来る前はどちらに?」
 「ロンドンに住んでいたわ」
 「そこで日本語を?」
 「ええ、大学で日本語を専攻していたんだけど、大学に日本人の友達もいて教えてもらったり。お煎餅も彼女に勧められたの」
 「そうなんだー。だからおせんべも食べれてこんなに日本語上手なんですねー」
 ミツエは何も考えずに相づちをうっている。
 「ええっと、その前って他の国に住んだこととかありますか?」
 「ええ、親の転勤でイギリスに来る前は大陸にいたわ」
 「どちらへんですか?」
 「いろんな国にいたんだけど、出身はオーストリア」
 「あ、じゃあすごい語学堪能なんですねえ」
 うん、やっぱりカミラ・ターナーの経歴と同じだ。子供だと思っていらぬことまで喋っている。ちょっと考えれば不自然極まりないではないか。
 「へえ、国際転勤かっこいいなあ」
 二切れ目のケーキを食べて残りのジュースを飲んだミツエは能天気なことを言っている。
ここで突っ込み過ぎると危険かもしれないので、私は話をやめ持参のケーキを一口食べてみた。うん、なかなかおいしいが、のどが渇くので一口にとどめておく。