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ミユキヴァンパイア マゲーロ4

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 私はシャングリラで作られた同族の発する微細な波動をキャッチする検知器を体内に仕込んできている。指示されたエリアをひたすら歩き回って反応を探すしかない。
 なので、毎日学校帰りに散歩しているけど、こんな非効率なやり方じゃどれだけ時間がかかるのかわかったものじゃない。もっと効率いいやり方はないのか、とマゲーロに文句を言った。するとシャングリラで何か使えそうなものを探してくるから、と地下にもぐってしまった。最初から考えておいてほしいものだ。
 とりあえず今日も遠回りして下校しようかと校門へ向かう途中でクラスメイトの女子に捕まった。ミユキと仲良しグループの一人、ミツエちゃんだ。
 「待ってよ、ミユキちゃん。最近なんでさっさと帰っちゃうのよ」
 「ああ、ちょっと用のある日が続いてて」
 めんどくさい子に捕まったかも。
 「たまには一緒にいちご屋に寄っていこうよ」
 いちご屋とは学校に近い商店街の駄菓子件文具店のことで、学校からは表向き禁止されているがこの辺の子供たちはしばしば買い食いをする店だ。そういうところで情報収集もありか。
 「いいよ、一緒に行こう」
 私はミツエと並んで学校の近くの商店街の方へ向かった。
 
 本当はランドセルをしょったままこういうお店に入るのはご法度で、先生に見つかれば怒られる。朝の会という毎朝のくだらないホームルームがあって、そこで「昨日、誰それちゃんが買い食いしていました、いけないと思います」なんてチクる奴がいないとも限らないのだが、特に敵対している相手でない限り子供たちはお互い様なので見て見ぬふりをする。
 商店街の端の方に麦わら帽子をかぶったイチゴのキャラクターの看板が見える。あれがいちご屋だ。ストローハットのストロベリー、ということか。ミユキもたまに来たことはあるようだ。
 子供相手の駄菓子やだからどれも100円以内で買えるような小分けした単品の菓子が多い。ミツエは棒ゼリーと酢漬け烏賊という渋いチョイスだ。私はというかミユキはもっと高級な菓子に慣れているからか、あまり欲しいものがない。まあたまにジャンキーなものもいいか、と暑いのに思わずブタメンなんか手に取ってしまった。塩分補給にいいかもしれないが店先で食べるにはちょっと目立ってまずいか、と思ったがすでにお湯を入れてもらった後だった。
 店先のベンチに腰掛けて、手をなめなめ酢漬け烏賊をかじる女子とカップ麺をすする女子。なんだかオヤジくさい。肝心の情報収集は店の中に誰もいなくて無理だった。私はミツエととりとめのない話をして間を持たせ、麺をすすりながら商店街の往来を眺めていた。
 と、その時だった。私の体内のエイリアンセンサーが反応したのは。
 ざっと見たところ通りを歩いているのは買い物袋を一杯にした主婦、花屋の前で立ち話をしているおばあさん二人、帽子を後ろ前に被ってグラサンをしたお兄さん、荷物を抱えて足早に通り過ぎる宅配のおじさん。センサーが感知しているのは誰だろう。少なくとも女性だろうけど、変装しているかもしれない。商店街の道を買い物袋を持って歩いてくる女性がいる。あれだろうか。
 ブタメンをすすりながら目をつぶって気持ちを集中させていたら、感動していると勘違いしたミツエに
 「ちょっと、ミユキちゃん、ブタメンそんなにおいしいの?ちょっと頂戴よ」とカップと箸を取り上げられた。
 「ちょ、ちょっと、何すんのよ」
 取り返そうとしたが、素早く麺をすすったミツエは
 「あっちー。なんだあ、フツーにブタメンじゃん」
 そんなことをしていたら、どこかの店に立ちよったのか標的を見失った。まずい。
 「気にいったならアンタにあげるから」ブタメンと割り箸をミツエに押し付けて私は立ち上がった。絶対この近くだ。
 「え、いいよ、いらないよ、てかどこ行くのミユキちゃん」
 「ごめん、急用思い出した。食べてて」
 「え、え、そんな」
 私は歩きかけたが、ミツエは手に持ったブタメンを食べ終えるまで立ち上がれなくなったようだ。よし、これで彼女をまける。
 とその時、ミツエが大きい声で
 「あー、田中せんせーい」と誰かを呼び止めた。
 一応気になったので私はミツエの方に体を向けた。近くの店からでてきたその人物が振り返った。女性だ。体内センサーが反応している。
 「あら、ミツエちゃんじゃない?何してるの買い食い?」
 買い物袋を提げたその人は方向転換してこちらに向かって歩いてきた。
 「あー、それは内緒で」ミツエが機先を制した。
 「大丈夫よ、学校は関係ないもの。お友達も一緒?」
 彼女は私を見てほほ笑んだ。うっとりするようなきれいな女性だった。ハーフなのかな。
 「あれ、ミユキちゃん、戻ってきてくれたの?やっぱブタメン食べたかったんでしょ」
 「いや、そういうんじゃなくて。えっと」
 私は(この人だれ?)という視線をミツエに送る。
 「あの、私の行ってる英語塾の先生。イギリスから来たんだって。先生、この子は同じクラスのミユキちゃん」
 「仲良しさんなのね」
 田中先生は私たちを見て優雅にほほ笑んだ。
 「うん、一緒のグループなの。あのね、ミユキちゃん知らなかったかもしれないけど、私去年から英語習いにいってて、田中先生は最近来た新しい先生なの」
 「へえ、そうなんだ」
 私は無関心を装ってちらっと先生を観察した。
 最近この近くに現れた田中ミラ、という情報と合致するではないか。まさに目の前にいるこの人があれってことよね。エイリアンセンサーも体内で騒いでいる。
 「あの、この近くにお住まいなんですか?」
探りを入れてみた。
 「ええ、私の部屋はここから歩いて10分とかからないわ」 
 「そうだったんだ?塾には電車で行ってるから先生のお家がこの近くだなんて知らなかった」
 ミツエが驚いていた。
 「私もびっくりしたわ。ミツエちゃんが声かけてきたとき。あんな大声出すんだもの」
 「だって呼び止めないと先生通り過ぎちゃうんだもの。ミユキちゃんがいきなり立ち上がったしさ」
 「よくわかったわね」
 「先生みたいにきれいな人いないもん」
 そこでミツエが私に向かって
 「あれ、ミユキちゃんそういえば、急用って言ってなかったっけ?」
 といまさらのように言ってきた。
 「あ、大丈夫。大したことじゃないって思いなおして」なんだかしどろもどろになってしまった。
 「二人ともこの近くなのね。今度遊びにいらっしゃいよ」
 田中先生が提案してくれた。願ってもない。
 「えー、ほんと。行きたーい」ミツエが喜んだ。私もこのチャンスは逃したくない。
 「私までお邪魔しちゃっていいのでしょうか?」
 「もちろんよ。お友達なら一緒がいいでしょう」
 「わあ、ありがとうございます」
 お互い都合の良い日にちを出し合って調整し、田中先生を訪問する日を決めた。
 「ところでミツエちゃん、そのブタメン早く食べちゃいなよ」
 「やだ、忘れてた。冷めてる」
 ミツエは慌ててかっ込んだ。
 そして私たちは再会を約して解散したのだった。
 

6章
 こうも順調に行くとは思いもよらなかった。